来春から段階的に新指導要領
ゆとり教育の柱だった「総合的な学習(総合学習)の時間」が転機を迎えている。小中学校の新学習指導要領で、時間数が現行の三分の二に減る。文部科学省は「削減するが、充実させる」とするが、学力低下批判を受けて約三十年ぶりに時間を増やす主要教科に押された感は否めない。来春からの移行を控え、対応に戸惑う学校現場をみた。(松本大典) 広島県海田町の海田東小。始業式から一週間ほどたった十五日、放課後の校長室に教務主任、学年主任の教諭八人が集まった。 週一回の企画研究推進委員会。議題が総合学習に及ぶと、金沢緑校長が軽い口調で投げ掛けた。「総合って意外と簡単よ。教科でやっていることを発展させればいい」。自信なさげに笑い返す教諭に「それこそ新要領が目指す方向よね」と背を押した。 海田東小は昨年度、地域を流れる瀬野川を舞台に環境・エネルギーを考えるカリキュラム「水と緑の東小ものがたり」を開発。理科や生活科で学んだ知識を川の探検で深める「教科発展型」の総合学習を展開している。 ▽探究に位置づけ 理科の時間に計画を立て、総合学習の時間に川へ出掛ける。環境活動に取り組む地域住民のサポートで生き物などを観察。探検記録を再び理科の授業で、教科書と突き合わせてみる―という具合だ。 子どもの「探検日誌」は回を重ねるごとに表現や描写が細かくなる。「総合の苦手な先生も、そのうちのめり込む」と金沢校長。海田東小に限らず、文科省の研究指定を受けるなど総合学習に熱心な小中学校で「教科とのリンク」はトレンドになっている。 新要領を練った中央教育審議会は、学習活動を「習得」「活用」「探究」に分類した。総合学習は「教科横断型の探究」の時間との位置づけだ。一方、総合学習で担ってきた「活用」を教科に振り分ける考え方を強調。その分、各教科の時間数が増え、総合学習の時間をカットしたと整理する。小学校で総合学習の「定番」となっていた英語活動が高学年で必修化。新たな枠組みですみ分けを図った。 ▽負の印象に不安 ただ、学校側の受け止めは複雑だ。熱心に取り組んできた教諭らは新要領の狙いに理解を示しつつ、時間数減の負のイメージを不安がる。「まるで邪魔者扱い」(広島市西区の男性教諭)「学力低下の元凶みたいに思われる」(中区の女性教諭)。現場の反発や疑問も少なくない。 県小学校教育研究会総合的な学習の時間部会長を務める戸坂城山小(東区)の松田孝司校長は、「士気の低下」を肌で感じている。「教師の関心は教科や英語活動に向く」との実感だ。新要領への移行をにらみ、総合学習で英語活動を拡大する動きもある。 海田東小の金沢校長は、児童の「探検日誌」を持ち歩く。他校の教師らに総合学習の魅力を伝える「ネタ」という。「教師のモチベーションをどう引き出すか」。教科重視に流れる現場で、仕切り直しするつもりだ。
(2008.4.28)
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