中国新聞


「学校裏サイト」いじめ横行
ネット被害に向き合う現場


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ネットをめぐる犯罪やトラブルについて広島県警の担当者から話を聞く宇品中の生徒たち(18日、広島市南区)

 パソコンや携帯電話の普及で、子どもたちを取り巻く情報環境が一変している。インターネットを通じたトラブルや事件に加え、メールや掲示板を使ったいじめも横行する。ネット社会の弊害にどう対応すればいいのか―。戸惑う学校現場の声に応え、広島県教委や広島市は対策に乗り出している。(見田崇志)

 「学校で嫌いな人ランキング」。昨年十一月、一通のメールが広島市内の女子中学生(14)の携帯電話に届いた。記されたアドレスに接続すると、友人や教員らの実名が載ったサイトが表れた。「キモイ(気持ち悪い)」「ウザイ」「そうだよね」との書き込みが続いていた。

▽実名挙げ中傷

 「学校裏サイト」と呼ばれるネット上の掲示板。女子生徒はすぐに、掲示板の管理人に削除を要請した。

 学校裏サイトは、中高生らが情報交換の場として開設している。携帯電話用が大半で四、五年前から広がった。同級生の実名を挙げた悪口、中傷が書き込まれることも少なくない。ネットいじめの温床といわれ、被害も増えている。

 南区の宇品中でも昨年、ネットへの書き込みをめぐるトラブルが数回発覚した。その都度、当事者である生徒と保護者を交えた話し合いを重ねた。問題を学校ぐるみで共有するための全校集会も開いた。

 「生徒同士のトラブルは学校の問題。ただ、表面化しにくいネット上の出来事だけに対処が難しい」と立畑薫校長(54)。今月中旬には、一、二年生を対象に広島県警のサイバー犯罪対策室による講演会も開催。軽い気持ちの書き込みが犯罪につながる実例を教え、生徒の意識改革を促している。

 市教委によると、ネットにかかわる問題行動報告は二〇〇六年度以降、市立小中から三十六件に上る。増え続けるネットトラブルに「何をどう教えればいいのか」「適切な教材が分からない」と戸惑う学校や教師も多い。

 こうした中、行政も手をこまねいているわけではない。県教委は昨年十月、携帯電話のトラブル対処法などをまとめた指導マニュアルを作成し、県内の公立学校に配布。今年一月には、市町教委の担当者向けに、子どもに正しい知識と接し方を教える情報モラル教育の研修会を開いた。

▽全国初の罰則

 市は七月から、子どもが使う携帯電話やパソコンに、有害サイトへの接続を制限するフィルタリング機能の付加を民間業者に義務付ける条例を施行する。違反事業者を公表する罰則は全国初。今月の市議会定例会で条例案が可決された。

 便利さと危うさを併せ持つネット社会。学びの現場もやっと向き合い始めた。


クリック 子どもと携帯電話 警察庁の2005年度の調査では、中高生の携帯電話所持率は70・9%。高校生は男女とも9割を越える。広島県教委がまとめた06年度の問題行動調査では、県内公立学校で起きたいじめ784件のうち、「パソコンや携帯電話などで、ひぼう中傷やいやなことをされる」は40件(複数回答)あった。

林武広・広島大大学院教授に聞く
情報社会 モラルが大切

 情報教育について、教員研修の講師などを務めている広島大大学院教育学研究科の林武広教授(広島大付属東雲小・中学校校長)に聞いた。

 ―なぜ情報教育が必要なのですか。

 子どもたちはパソコンなど機器を扱う技術は高い。その半面、個人情報を守るといった意識は低いままだ。技術だけでなくモラルも教える。ルールはもちろん、モラルの大切さに気付かせ、情報社会の現実と向き合う工夫が欠かせない。

 ―教え方に悩む教員へのアドバイスは。

 教科書も、決まった指導方法もないが、戸惑う必要はない。新聞などを材料に、社会で起きている問題や事件について一緒に考え、身近な問題だとまず気付かせる。担当の先生任せでなく、一人一人の先生が意識を高めてほしい。

 ―具体的にどんな指導方法があるのでしょう。

 文部科学省の実践研究校に指定された土堂小(尾道市)では、カリキュラム作りなどを指導した。子どもには実際にチェーンメールや、うその書き込みなどをしてもらった。不正確な情報がもたらす混乱を体験し、ネット情報と向き合う子どもたちの姿勢が変わった。

 ―学校の指導だけで十分でしょうか。

 家庭の役割も大切だ。「持たせない」「使わせない」は、いつまでも続かない。学校任せにせず、家庭でルールを決めたり一緒に使い方を考えたりするのが第一歩。受け身にならず、主体的に子どもたちを取り巻く情報環境に立ち向かってほしい。

(2008.3.31)


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