広島文教女子大 徳本ゼミ生
▽教員・保育士へ旅立つ9人 小学校、幼稚園の教員や保育士の「卵」たちの旅立ちの季節がやってきた。泣いて、考えて、議論して、また泣いて―。真剣に悩んできた若者たち。「経験はきっと生きてくる」。教える立場として、子育てのサポート役として力を発揮しようと張り切る。広島市安佐北区、広島文教女子大初等教育学科の徳本達夫教授(57)のゼミに学ぶ九人の学生の姿を追った。 ゼミ生の一人、岡野明日香さん(22)は先天性のアトピー性皮膚炎。中高生のころ、かいてできる赤い傷あとを級友にからかわれた。一つ年上の姉も同じ症状だったが、相談し合うことはなかった。他人との壁が、いつもあった。 「その考え方はおかしい」「あなたが悪いんじゃない、あなたを悲しませる社会が問題なんだ」 予想外の反応だった。ゼミでからかわれた経験を告白したときだ。「特別な私の体のせい」と思い続けてきた自分に向けられた言葉。「初めて友達に話したら、考えが変わった」と岡野さん。たどり着いた答えは、悩みを一人で抱え込むだけだった「自分」。ようやく向き合うことができた。涙が出た。 ▽助け合う心学ぶ 「背中かいてくれん」。正月に帰省した実家で姉に言われ、かいた。これまでなら「自分でかけば」と断っていた。「自分の痛みと向き合い、助け合う大切さを理解できたからだと思う」と岡野さん。「同じ悩みを持つ子を、私は受け止められる」。古里の尾道市で、保育士を目指す。 川口彩さん(22)は小中学時代、周囲に心を閉ざす女友達と徐々にうち解けたが、頭の片隅にはずっとしこりがあった。「先生は、元気な子の相手ばかりして、ふさぎ込む子を見捨てとったんじゃないか」 ゼミで初めて話した。中学時代、集団無視をされた経験があるという矢野可奈子さん(22)は言った。「彩がいたことがその子には救いだったと思う」 川口さんは漠然と目指していた教職への思いを強めた。「悩む子どもから逃げない。とことん話す」。つらい経験を告白した矢野さんも言う。「思い出したくもなかったこと。でもその思いを子どもにさせたくないと今は思う」。ともに春から小学校教員だ。 徳本教授の持論は「ゼミ室から出て家に帰っても、頭から離れないテーマが『自分』。そこと向き合うから、学生は変わる。そのときの喜びは替え難い」ということだ。 ▽日没後まで議論 議論は週二回、昼すぎからときには日没後まで続いた。他の学生は「忙しそうじゃね」と言ったが、内田郁子さん(22)は「全く苦にならなかった」。中学三年のときいじめにあった。人目が気になりずっと自信が持てなかった。「徳本ゼミなら受け入れてくれるよ」と先輩に聞き、選んだゼミだった。 免許をとるための実習以外にも、関東や九州など全国八カ所の幼稚園や保育所に自ら出向き、実習を重ねた。「何事も受け身だった高校時代では考えられない」。ゼミを通じて、殻を破ることができた。四月からは、東広島市で幼稚園の教員として働く。 徳本教授は、間近に迫ったゼミ生のデビューを思い描く。「つらい経験から目を背けず、社会に生かそうともがいた。子どもとの生活で必ず生きてくる」。内田さんは言う。「まだ出発点。これからどう子どもと接していくか。日々勉強です」(樋口浩二) (2008.3.10)
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