【社説】 不妊の夫婦が妻以外の女性に出産を頼む代理出産を、認めるか否か。検討していた日本学術会議は「原則禁止」とする報告書最終案をまとめた。 営利目的を処罰する一方、国の管理下で「試行」の道を残す異例の結論になった。代理出産の是非については国民の意見も分かれる。最終案をもとに国民を巻き込んだ議論を尽くし、法制化を急いでもらいたい。 原則禁止とする理由としては、まず倫理的な問題がある。その上で、妊娠、出産の危険を第三者の女性に負わせる問題や、生まれてくる子どもの健康への悪影響などが挙げられる。代理母と早期に引き離される子どもの精神的ダメージも予想される。 心配なことは多いが、問題点を明らかにする具体的なデータがほとんどないのが現状だ。親子や家族関係に与える影響など、実施して初めて明らかになるものばかり。そこで、原則禁止としながらも例外として「試行」が盛り込まれた。 ただ、この試行については「一種の実験で子どもが生まれていいのか疑問」という指摘も出ている。違和感を覚える人も多いのではないか。論議の余地があろう。 日本産科婦人科学会は倫理指針で代理出産を禁止している。しかし、長野県のクリニック院長は、これまでに計八例の実施を公表している。米国など海外に渡って代理出産してもらう例も増えているのが現状だ。 タレントの向井亜紀さん夫妻が米国での代理出産で授かった双子の戸籍について、最高裁は昨年、法的な実の親子関係は認められないという判断を下した。最終案でも、産んだ女性を母とし、養子縁組で親子関係を認めるとしている。この問題についても、論点を詰める必要がある。 厚生労働省が昨年実施した国民意識調査では、容認派が54%と過半数を占めた。病気で子宮を失うなどの理由で妊娠、出産できない女性が、自分の子どもを持つ最後の選択肢として代理出産を望む気持ちは切実である。 既成事実が先行している中で、社会的合意や法的なルールがない状況は好ましくない。すでに生まれている子どもたちの権利を守るためにも、早急な法の整備は欠かせない。代理出産にかかわった医師ら当事者の意見を聞きながら、子どもの幸せを第一に考える視点を大切にしたい。 (2008.3.9)
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