【社説】 医師が足りない。とりわけ、過酷な勤務状況などから産科は深刻で、昨年からことしにかけ、分娩(ぶんべん)を中止する病院が相次ぐ。福山市民病院や山口市のJA厚生連小郡第一総合病院に続き、松江生協病院や広島県府中町のマツダ病院と、都市部の総合病院が目立つ。過疎地だけでなく、地元で出産できなくなる地域が中国地方でも一段と広がっている。 いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。医師が複数確保できなくても、助産師チームでカバーして分娩を進めるなど、独自の手法に活路を見いだす病院も出てくるようになった。 倉敷市の水島協同病院を運営する医療生協は一昨年十月、病院に隣接する民家に助産院を開いた。産婦人科の医師が一人になり分娩が継続できなくなったためだ。地域の人がお産できる体制を残そうと、病院の助産師が声をあげた。 妊婦検診から分娩、新生児ケア、育児相談まで助産師四人が母子に寄り添い、支える。初診や節目の検診を行うのは病院の産科医師。助産師が扱える正常なお産になりそうかチェックしてもらう。帝王切開が必要になった場合、ハイリスクな母子を受け付ける別の中核病院へ引き継ぐ体制も整えている。 病院が設ける助産院や助産科は院内にあるのが一般的だが、あえて院外に設けた。最終的な責任を医師ではなく助産師が持つためだ。これなら医師の負担は精神的にも軽くなるだろう。 医師不足の現状を全国に強く印象づけた島根県隠岐の島町。産科医師が一時いなくなり島外出産を余儀なくされていたが、隠岐病院に昨春、助産科ができ、出産経験のある人などリスクの低いお産を始めた。防府市の山口県立総合医療センターでも助産院設置を検討している。古くから日本人の暮らしになじんできた助産師の役割が、あらためて見直されているといえる。 ただ医師が立ち会わない出産は不安と敬遠する妊婦もいるようだ。より自然なお産ができるなど、助産院のメリットを周知する必要がある。一方、病院勤務の助産師は仕事が幅広く、出産介助に専念できない場合もある。力量もより高めたい。 助産師の活用から、医療現場での「分担」と「連携」の大切さが見えてくる。疲弊しているのは、産科医師ばかりではない。救急の多いほかの診療科目でも、医師の仕事を分担できることはないだろうか。 国の規制緩和の一環として、薬の投与量の調整など医療行為の一部を看護師が担えないか、検討を求める声も出ている。医療秘書を置き、医師の負担となっているカルテや診断書など事務作業を任せる動きもある。十分な議論のうえ、できることから始めたい。 国家試験合格者の約三割を占める女性医師が働きやすい環境づくりも急務だ。尾道市立市民病院や周南市の徳山医師会病院など院内保育所を整備する病院も増えてきた。施設を二十四時間制に時間延長する動きもある。フレックスタイムの導入など、さらに工夫を重ねよう。 地域を挙げて、医療の空洞化を何としても食い止めたい。 (2008.1.6)
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