中国新聞


識者に聞く
子どもと本の出合いを


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「読み終えるのがもったいないと思うような本にたくさん出合ってほしい」と話す吉川さん(東広島市の自宅)

 世論調査結果について、長年、広島県の読書会活動を支え、各地の講演会でユニークな読書論を披露する、「ひろしま子どもの読書活動団体等ネットワーク協議会」の吉川五百枝代表幹事(66)=東広島市河内町=に分析してもらった。

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 書籍をまったく読まない人の比率は、十歳代が最も少なく、年代が上がると高くなる。「活字離れは若者の問題」との認識はあたっていない。

 それなのに、子どもたちに対して学校や家庭で活字に親しむ取り組みをすべきだと考えている親たちが多い。自分は本を読まないが、学校に期待し、家庭でももっと取り組むべきだと思う矛盾した姿が浮かぶ。

 それは、活字離れを問題視する学生のうち、学校に取り組みを求めたのが63・2%に対し、家庭に求めたのが14・0%だったことにも表れている。家庭の中で親が本を読む姿を見ないから「家庭で」と思えないのかもしれない。

 親たち世代が読まない理由は「忙しいから」が多いが、一日は誰にでも二十四時間ある。工夫次第で本を読む習慣は確立できる。「どうすれば?」とよく聞かれるが、メールを打つ代わりに手紙を書こうと呼び掛けている。手紙を書くには材料が必要だし、よく考えないといけない。漢字も知らないといけない。手紙に代えると自然と本を読むようになります。

 調査結果で深刻だと思ったのは、十歳代の四割近くが「読みたいと思う本がない」と回答したこと。職業別でも学生の比率が最も高かった。子どもたちが本とうまく出合えていない。学校に専属の司書がいないなど、ガイド役不在という現実が浮かぶ。

 学校の図書室を体育の着替え場所に使っていた、本を読まない男子中学生が、図書室にいる読書ボランティアとマンガの話をしているうちに親しくなり、小川洋子著「博士の愛した数式」を読んで卒業したという話を聞いた。子どもの興味を導くように本を薦める専任の人が常駐していれば、読書習慣も身に付くはずだ。常駐者のいない学校は、行政が努力して置くべきだ。

 本離れの背景には社会全体に広がる人間の万能感があるのではないか。「自分で何でもできる」と思っているうちは本なんて読まない。パソコンが普及したが、現実世界の悩みはボタンを操作するように簡単に答えは出ない。自分の限界を知ってはじめて、他人が考え、発した言葉が必要となる。多くの言葉を知るほど自分の無知を知り、ものの見方が深くなる。

 読書を広くとらえてほしい。今回、「一冊も読まない」と回答した人でも、子どもに絵本は読んであげているかもしれない。写真集を見るのが好きかもしれない。メッセージを交換する点では、活字の本を読むのと同じ。本が身近になくても、図書館は日本中にある。全国に自分の本棚があると思って豊かな気持ちで本と接してほしい。

 調査結果は厳しいけれど活字離れを憂いたり、学校や家庭で何とかすべきだと考えている人が多数に上った点は、ほっとしている。数字の向こう側に社会への期待が感じられ、うれしく思った。


 きっかわ・いほえ 福山市出身。浄土真宗・順教寺の坊守。約40年前から各地で読書会を実施し、自宅の蔵書約4000冊を地域に開放する。広島県教委の「ことばについて考える100人委員会」幹事も務める。

(2008.1.5)


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