中国新聞


位置確認で増す安心
安芸区矢野南小 児童見守りシステム検証


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ランドセルに携帯端末を下げて下校する矢野南小の児童たち。位置や通過時間の情報が自動的に送られる(2007年9月21日、広島市安芸区)

 最先端の情報技術(IT)を使い、広島市安芸区の矢野南小で進められていた登下校見守りシステムの実証実験が昨年十二月で終了した。「子どもの位置が分かり安心」といった評価がある一方、通学路を外れた児童への即時対応がしにくいなど課題も浮かび上がった。子どもを狙った凶悪犯罪が相次ぐ中、「安心・安全」への有効な手だてと成り得るのか。約三カ月半に及んだ実験を検証した。

 実験で保護者が見たパソコン画面。矢野南小周辺の地図に示された集積回路(IC)タグの設置場所に、児童の通過を示す赤いマークがリアルタイムで刻まれていく。PTAの高亀英作会長は「ポイントごとに子どもの通過時間が分かり、職場から確認できる。一緒にいる児童数も表示されるので安心感は増した」と評価する。

 しかし、九月上旬のスタートから約一カ月間は、児童の端末をタグが読み取らないケースが相次いだ。タグの認知範囲は半径約二十メートル。しかも、十秒程度は児童が範囲内にいる必要があったからだ。

100%認識へ手応え

 多数の児童が一度にタグを通過した際、すべてを読み取れないことも判明。三、四時間しか持たない端末の電池切れも少なくなかったという。

 対策としてタグの性能アップに加え、通学路のタグを十二台増設。校門だけに置いていたタグを、各教室にも設けた。

 その結果、学校のタグの認識能力は当初、約四百五十人の対象児童のうち、約60%しか登下校を認識できなかったが、実験の終了間際には95%を認識できた。通学路のタグも、ほぼ認識漏れがなくなったという。

 システム開発に携わった広島市立大大学院の角田良明教授(情報工学)は「運用の工夫で登下校の認識率はかなり上がった。自宅にタグを設け、通学路の設置個所を二、三倍にすれば、登下校完了をほぼ100%確認できるのでは」と手応えを感じている。

 しかし、別の問題も浮上した。システムでは児童がタグを通過してから十五分間、次のタグを通過しない場合、見守りボランティアに異常を知らせるメールが届く。

誤ったメール届く

 児童が友人宅で遊ぶなど短時間の寄り道や、通学路を少し外れただけでも発信。ボランティアの携帯電話に百通以上の「異常メール」が届いた日もあった。

 「本当の緊急事態なのか分からない」「時間通りに帰れないときもある。そのたびにメールが届くのはどうか」「十五分たってからでは、駆け付けても遅い」―。保護者らからは、不備を指摘する声が上がった。

 実施団体の一つ、市産業振興センターの畠山幸夫技術振興部長は「児童が端末を使って緊急事態を知らせる方法が必要になる」と指摘する。防犯ブザーを鳴らすと同時に、異常メールが瞬時に送られる仕組みなどが不可欠というのだ。

 誤報や位置確認の精度、緊急時への対応に課題を残したものの、保護者アンケートではシステムを歓迎する声が多いという。畠山部長は「性能が上がっても、児童が危険を察知して知らせる力は高くないといけない。すぐに駆け付けるボランティアの協力も欠かせない」と強調。「学校関係者と住民の連携を円滑にするためにも、システムの改善を進めたい」と話している。(久保田剛、安部慶彦)


 広島市児童見守りシステムモデル事業 2007年9月4日から12月21日まで市など7団体でつくる協議会が実施。電柱など30カ所に通信機能があるICタグを設置。見守りボランティアと保護者、児童にタグ読み取り機能を備えた携帯端末約500台を貸与し、児童がタグ付近を通ると自動的に時間などの情報を家庭のパソコンなどに送信した。見守り活動の負担軽減などを図るため、総務省がモデル事業に採択した。

(2008.1.5)


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