子どもの芽信じて
広島大大学院教育学研究科などが優れた教育実践者に贈るペスタロッチー教育賞に選ばれた、知的障害児施設「しいのみ学園」(福岡市)のf地三郎園長(101)は、母校の広島大キャンパスで記念講演した。f地園長は教育一筋の人生を振り返りながら「心の教育」の大切さを熱く語った。要旨は次の通り。(小山顕) 創造・想像 教育の出発点 栄誉ある賞を拝受いたしまして、ありがとうございます。私は、広島師範学校(現広島大)を大正十五年に卒業し、(尾道市内の)小学校の六年生の担任になりました。みんな貧しくて、子どもたちは子守をしながら学校に来ていたのです。この時、われこそが日本のペスタロッチーとして、この子どもたちとともに生きると決意しました。 二十八歳で結婚し、生まれた二人の子どもが小児まひになりました。子どもを連れて人生をいかに歩んでいったらいいのか考えて苦しみ、悩み、いじめのない障害児の学校をつくろうと、「しいのみ学園」を設立したのです。 山の中に捨てられた小さなシイの実は、落ち葉の下に埋められ踏みにじられているが、温かい水と太陽の光を与えるならば、必ず芽を出してくる。こうした信念を基につくったのです。 しかし、そのころは養護学校はなく、「福祉施設で教育をやってはいけない」と言われたのです。「私は、法は守れない。子どもを守る」と言い放ち、認可を取り消されて福岡県からの補助金をもらわないで、学園を経営することになりました。いかなる子どもも心の奥底に伸びゆく美しい芽を持っている。ほほ笑みのあるところに人間教育がある。これがペスタロッチー教育なのです。 教育は、三歳が勝負どころ。手作りのおもちゃを親子が一緒に作ることで、きずなは深まる。こうした親子の愛情のある時間がせめて一カ月に一回ぐらいあると、親殺しとか子殺しとか、虐待ということはなくなるのです。 私は牛乳パックなどを使って、五千種類ぐらいおもちゃを作りました。親子で作ると、材料が同じでもみんな違った物ができます。ここに、ファンタジーの想像力とクリエーティブの創造力が出来上がります。教育の出発点がここにあるのです。 九十五歳からは国際交流を始め、中国で最初の「しいのみ学級」をつくり、新聞やテレビで紹介されました。毎年、世界一周講演旅行にも行っています。九十九歳までは助走、百歳からが本番。来年も世界一周講演旅行に行きます。 世界中に自分の教育論が普及することは、本当にうれしい。ペスタロッチー精神を普及することにもなるのです。
(2007.12.1)
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