受け止められる環境を 【社説】 これまでのいじめ調査はどれだけ実態とかけ離れていたのか。 文部科学省が実施した二〇〇六年度の調査で、全国の小中高校のいじめ認知件数が、十二万四千八百件余りに上っていることが分かった。今回から調査対象に加えた国立や私立を除いても、前年度の六倍に急増している。 昨年秋以降いじめによる自殺が相次いだため、文科省は被害者の気持ちを重視して、いじめの定義を拡大した。苦しんでいる子どもたちに寄り添おうとする姿勢がやっと見えてきた。 ただ今回の調査でも、被害を受けた児童生徒は百人に一人にも満たない。専門家からは「実態とは程遠い」という指摘もある。同じ年ごろの子どもを持つ親の実感ともかけ離れているのではないか。 都道府県別に千人当たりの認知件数をみると、地域で最大二十四倍のばらつきがあるのも気になる。文科省が指示した調査のやり方があいまいで、混乱も出ているのだろう。数字の多寡がそのまま各県の実態を映しているとは言い切れない。より実態に近づける調査のあり方を探る必要がある。 これまで、定義を見直し、いじめの件数が増えると、また減らしにかかるという繰り返しだった。表面上の数字を減らすことにとらわれず、データをどう生かすかを考えなければならない。 今回から調査項目に加えられたパソコンや携帯電話でのひぼう中傷の「ネットいじめ」は、四千九百件近くあった。新しい形のいじめである。生徒らが立ち上げる学校裏サイト。アドレスやパスワードを生徒同士で教え合うため、表面化しにくい。いじめの中でも実態把握は難しいといわれる。身近な問題として考えている親や教師は、どれだけいるだろうか。 匿名で書き込まれる内容はエスカレートしやすい。いつでもどこでも、いじめにさらされる子どものダメージは深刻だ。今夏神戸では、ネットいじめが絡んだ高校生の自殺も起きている。軽い気持ちで送るメールがどれだけ被害者に痛みを招くか、学校や家庭で教えたい。学校への携帯の持ち込みが必要かなど、あらためて子どもとともに考える必要がある。 まず親が兆候に気づくことが大切だ。さらに、悩む子どもからのSOSを受け止められる環境をつくることも重要になる。中国地方各県に、チャイルドラインなど民間の電話相談もできている。地域でもしっかり支えたい。 (2007.11.17)
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