【社説】 やはり、と言っていいのだろうか。妊婦の救急搬送で病院に受け入れを拒否された「たらい回し」は、奈良県だけの問題ではなかった。二〇〇六年、三回以上拒否されたケースが、三十都道府県で六百六十七件にも上ることが消防庁などの緊急調査で分かった。広島でも二件、岡山でも一件あったという。 拒否回数が十回以上の深刻な例も全国で四十五件あった。受け入れ先が決まるまで、現場で救急車が三十分以上待機したのは千十二件。安心して出産できる体制には、ほど遠い現実だ。 なぜだろうか。すべての拒否事例でみると、容体が重いなどの「処置困難」が最多で26・6%。ほかに「手術・患者に対応中」「専門外」「ベッドが満床」といった理由が続く。医師や施設の不足など、産科医療の構造的な問題を裏付けている。国や自治体は、病院側の事情をさらに詳細に調べ、解決の糸口を探ってほしい。 注目したいのが、妊娠しているのに一度も病院にかかったことがないため断られたケースだ。全体から見ると3%だが、各都道府県ごとに拒否回数が最多の例を見ると、「未受診」という理由が目立つ。診療記録がなく、どんなリスクがあるか分からないこうした妊婦は、病院側にとって受け入れにくいとみられる。 なぜ、妊娠しても病院に行かないのだろう。格差社会のなかで経済的にゆとりのない人や、出産に対する知識に乏しい人が増えていることがあるようだ。妊婦検診の大切さをアピールするとともに、負担の軽減策を考えることも必要である。 緊急調査は、奈良県の妊婦が受け入れを拒否され、死産した事態を受け行った。調査を機に消防庁は、全国の消防本部に病院との連携を強化するよう通知した。 広島県では、産科や外科などの救急で、搬送先が見つかりにくい時に隊員が携帯電話で患者の受け入れを一斉に要請し、可否を確認できるシステムを八月に始めた。効率的に情報交換するのが狙い。患者の詳しい状態は肉声で伝える。今のところ妊婦の搬送での活用例はないが、独自の取り組みとして期待できそうだ。 しかし、連携をいくら密にしても、妊婦を受け入れてくれる病院がなければ、このシステムは生かされない。産科医を確保する中長期的な視野での対策を含め、あらためて考えたい。 (2007.10.30)
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