中国新聞


児童虐待どう防ぐ
大人の心身ケア必要


 福山市駅家町万能倉を拠点に活動する特定非営利活動法人(NPO法人)の「家族と教育を考える会」が設立一周年を迎えた。九月の記念講演会のテーマは「児童虐待」。元高校教師でカウンセラーでもある横路忠代表(50)に、社会問題化する児童虐待の要因や背景、予防の道筋を聞いた。

 ―1周年で児童虐待をテーマにした理由は。

 親のアルコール依存などを原因とした暴力や、仕事に追われての育児放棄、意思疎通が苦手な親たちの孤立感が生む異常行動…。児童虐待には多様な要因や背景があることを知らせ、何ができるのかを一緒に考えたかった。

 ―児童虐待の認定件数は毎年、過去最高を更新していますね。

 市民の認知度が高まり、届け出が増えている側面が大きい。社会に埋もれていた実態が表面化し、問題点や解決策を探るためのきっかけとなっている。

 ―なぜ大人が子どもを傷つけるのですか。

 知ってほしいのは、アダルト・チルドレン(AC)と呼ばれる大人の存在。子どものころ家庭内で言葉や態度、暴力で虐待を受けていたがために親の顔色ばかりを見て、自分の感情を押し殺して育った大人たちだ。

 子どものころに「愛された」との経験がなく、感情を自分で抑圧してきた大人の中には、「子どもを愛する」「人を大事にする」といった感情が分からない人たちがいる。それが児童虐待につながるケースもあり、予防するにはそんな大人たちの心身のケアが必要だ。

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「児童虐待の多様な要因、背景への理解を」と語る横路さん

 ―例えば、どんな対応が考えられますか。

 子ども時代の後遺症は、アルコール依存症や対人恐怖症、摂食障害などの形で心身に表れる。表面上は「普通の大人」でも、内面の孤独感や緊張感にもがき苦しんでいる場合もある。ACと自覚する人は、考える会で運営する自助グループに参加し、体験を自分の言葉で話すことから始めてはどうか。仲間の共感が広がる中、心の傷が癒やされるようになるはず。

 ―高校教師の職を辞してまで、NPO法人の設立に動いた決意とは。

 十五年以上、福山市などで高校教師をする中で、非行に走る生徒たちと向き合ってきた。自宅を訪ねると多くの場合、家庭が荒れていた。一方で、今の学校現場は「優秀な生徒を育てる」のが主流で、「傷ついた子どもを助ける」には、その活動に専念するしか道はないと決断した。

 ― 一番訴えたいのは。

 実は私も、生みの親と育ての親がいて、その事実が秘密にされていたことを知り、どちらにも愛されていないと苦しんできた。ACはレッテルではない。人生を応援する言葉ととらえてほしい。「ありのままで生きていいんだ」。自助グループで仲間に語り、仲間の話を聞き、自己肯定への一歩を踏み出してほしい。


家族と教育を考える会 2006年に県の認証を受けた特定非営利活動法人(NPO法人)。アダルト・チルドレン(AC)の自助グループの運営▽悩みを抱える人たちのカウンセリング▽不登校や居場所がほしい子どもを対象にしたフリースクールの開校―の3つを活動の柱にしている。Tel084(976)7853。

よころ・ただし 浜田市出身。立命館大を卒業後、高校の数学教師を務める傍ら、日本カウンセリング学会の認定資格を取得。家庭や学校に起因する問題の解決を支援する地域活動に専念するため、2003年に高校を退職した。福山市加茂町在住。


 《記者の視点》 背景に複雑な原因

 全国の児童相談所の児童虐待相談件数は二〇〇六年度、三万七千件に上った。十年間で七倍に増えた。虐待の要因は、大人の被虐待体験や家族の崩壊、経済的困窮、地域からの孤立など多様で、かつ複雑に絡み合う。多角的な予防策が急務だが、行政は個別事例の対応に追われがち。地域に根ざす横路代表たちの活動を、社会全体で支援する機運が高まればと願う。(木原慎二)

(2007.10.8)


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