科学館オープン5年 年15万人入館維持 理科の拠点 出雲にあり 開館から五年がたった出雲市今市町の出雲科学館が盛況だ。「ノーベル賞級の子どもを育てよう」と市が約三十四億円を投じてオープンした施設は、見込みの三倍の年間十五万人の入館者数を維持。小中学生の理科の成績を支えているとの評価もある。七月には約九億円かけた新棟も完成。全国でもまれな膨張するミュージアムは、一層の飛躍を期す。(松本大典) 盆入りを翌日に控えた日曜日。出雲科学館のホールで、講師の鵜飼恵美さん(25)が親子の視線を浴びていた。「真夏の夜の花火ショー」。鵜飼さんがさまざまな金属粉をろうそくの火にかけ、赤やオレンジ、青色の火花を次々と起こすと、歓声とどよめきがわく。 終了後、数人の子どもに囲まれた鵜飼さんは線香花火を手に「一緒につくろう」。松江市の小学四年勝部晃多君(10)は「花火づくりなんて初めて」と目を輝かせた。 常設装置40種 年間を通じて入館者が最も多い夏休みは、サイエンスショーや実験教室など多彩な催しが毎日続く。普段も週末ごとに繰り広げる企画は館所属の講師たちがひねり出す。「科学を身近に感じてもらいたい」と鵜飼さん。花火ショーを展開した夜には、市内最大の花火大会があった。 同科学館の入館者数は開館初年度が十四万六千五百人。昨年度は十五万三千七百人で微増傾向にある。 入館無料の気軽さもある。が、飽きない催しも秘訣(ひけつ)。雨の多い地域の貴重なたまり場とありがたがる母親が、約四十種の常設装置に子どもと夢中になる光景も日常だ。雲を疑似的につくり出したり、ノズルから吹き出す風でピンポン球を宙に浮かせたり…。 利根川進さん、小柴昌俊さんらノーベル賞受賞者や宇宙飛行士の毛利衛さんら「大物」の講演会も年一回、開いている。 学校授業担う 市民の学びの場は、学校教育を担う拠点の顔も持つ。市内の小学三年から中学三年まで、理科授業の一コマを引き受ける全国でも先駆的な取り組みだ。学校からバスで訪れる児童生徒は、白衣やゴーグルを身に着けて学習。プラネタリウムで星座を学んだり、二足歩行ロボット「アシモ」の出張授業を楽しむ学年も。 移動時間を割く科学館授業の成果を疑う声も当初はあったが、合併前の旧出雲市の学校に限られていた受け入れは徐々に拡大。新たな理科学習棟の完成により、新市全域に広げる。 アンケートでは毎年、90%以上が「面白かった」と回答。文部科学省が三年前にまとめた調査でもほぼ同じ傾向がみられ、「科学館学習は効果的」と評価された。県が昨年度から始めた小中学校の学力調査では、市内の理科の平均点が県全域のそれを上回る。 実体験が大事 「子どもの理科嫌いが進んでいるというが、感動する授業を受けられていないだけ」。曽我部國久館長は訴える。「実際に驚き、面白いと感じた実体験を伝えることが大事」。出前実験で全国を駆ける館長の信念だ。 市財政が厳しい中、一般会計でほぼ丸ごと賄う年間一億円の管理運営費の抑制、学校教育の制度上、館で独自に雇えず、研修名目などで工面している科学館授業の教員体制…。課題はもちろんある。一方で、当初の目的達成に向けては、息の長い取り組みが不可欠だ。 科学館建設を提唱した西尾理弘市長は「実績を確かめていく段階に入った。ただ、本当の見返りは長期的に出てくる」と強調。科学する心の広がりに期待を込める。
(2007.8.29)
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