中国新聞


授乳OK 123ヵ所開放
板橋区の「赤ちゃんの駅」


 保育園・児童館 育児相談も

 家に閉じこもりがちな育児中の親に安心して外出してもらおうと、東京都板橋区が保育園や児童館を「赤ちゃんの駅」として無料開放している。授乳やおむつ交換に使ってもらう全国でも珍しいサービスで昨年六月に始まり、今月からは私立の施設にも対象を広げた。既存の施設を活用するため予算は少ないながらも、少子化対策の意味もあり「地域の子育て力」を高めている。(漆原毅)

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「赤ちゃんの駅」の旗を掲げる保育園

 埼玉県との県境近く、繁華街にある高島平くるみ保育園。入り口の門には「赤ちゃんの駅」を示す旗が掛かる。希望者は区内在住者に限らず、簡素な申請書に名前や住所を書くだけで、医務室などで授乳やおむつ交換できる。一歳の長男を連れて利用した三十歳代の主婦は「街にはトイレはあってもおむつを替えられる場所がない。『駅』の旗があると安心できる」と喜んだ。職員が離乳食やしつけなど簡単な育児相談にも応じる。渡部法子園長は「リピーターも増えてきた。何かあったら飛び込める場所と思ってもらえればいい」と利用を呼び掛ける。

 事業を始めた昨年六月、「駅」に指定された児童館や保育園は区立の八十四カ所。利用は年間で計三百六十八件だった。評判が良かったため私立の施設にも呼び掛けたところ、ほぼ半数で賛同が得られ、今月からは百二十三カ所に増やした。

▽安心感広げる

 子育ては「孤育て」と言われるように孤独に陥りやすい。家にこもり続けると気がめいり、乳幼児の虐待にもつながりかねない。区児童課は「どこにでも『駅』がある安心感が広がれば外出しやすくなる。もっと増やしたい」と意気込む。

 端緒は区の事業提案制度だった。提案したのは、かつて育児中に外出で苦労した経験がある高島平かえで保育園の小林倫子園長。地域の保育に三十年余り携わった立場を生かそうと発案した。小林園長は「板橋が子育てにやさしい街と知られれば、ここで子どもを生み育ててくれる人も増えるだろう」と願う。

 事業を始めるときに最も問題視されたのは防犯だった。特に二〇〇一年に大阪府池田市で起きた校内児童殺傷事件以来、部外者を入れるべきではないという考えが強まった。加えて、感染症や受け入れ施設の負担増などの心配もあった。区児童課は「不安もあったが、怖がらないで地域に門を開くべきだと考えた。地域の子育て力を高める必要がある」と判断。入所園児の保護者から手紙で不安の声は届いたが、今のところ問題は起きていないという。

▽背景に少子化

 板橋区が子育て支援に力を入れる背景には、深刻な少子化がある。区の〇五年の合計特殊出生率は一・〇一。人口が維持できるとされる二・〇八の半分以下で、全国平均の一・二六も大きく下回る。

 経済的な負担を補おうと、十月からは医療費助成の対象を拡大する。予算は年間十一億円から十八億円に増える見通しという。一方、「赤ちゃんの駅」は特別な設備を設けず、空いているスペースを貸すだけ。予算は旗の作成費だけで初年度は十八万九千円、本年度も十六万六千円だった。区児童課の大内高課長は「助成も大事だが、お金だけが支援の方法ではない。できることは何でもやっていきたい」と強調している。


板橋区の子育て支援策 「赤ちゃんの駅」は月―土曜の午前10時―午後4時に実施。主に3歳までの乳幼児がいる保護者の利用を想定している。このほか、出産後の母親向けに「産後フィットネス講座」を開くなど、育児中の外出や気分転換を促す取り組みに力を入れている。

(2007.7.25)


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