統廃合の懸念強まる ■広島県北広島町 定住促進策が不可欠 広島県北広島町で四月、小中学校の選択制が全町で実質スタートした。今、小学一年生十人が学区外の学校に通う。通わせたい学校に通える点で保護者には歓迎する声が多い。半面、過疎と少子化が著しい中山間地域での選択制導入は、学校によって子どもがさらに少なくなり、「地域性の希薄化」にもつながりかねない。学校の魅力づくりだけでなく、定住促進など総合的で抜本的な対策が欠かせない。(北広島支局 江川裕介)
午前七時半、壬生小一年坂野桜子さん(6)が南方の自宅から母の葉子さん(42)に車で送られ、集団登校の輪に加わった。学区内の南方小は自宅から四キロ。壬生小はそれより一キロ近い。壬生小には同じ保育所に通った同級生も多く、登校時間帯に路線バスも走る。「いずれ一人でバス通学できる」と、葉子さんは学区外を選んだ理由を語る。 保護者は賛成多数 北広島町教委は昨年二月、合併前の旧千代田町が導入した選択制を全町に広げるか否かを、識者らでつくる小中学校通学区域弾力化検討委員会(委員長・二宮皓広島大副学長)に諮問した。三カ月後の答申は、近くの学校に通いたいと望む声がある▽学校の特色づくりに役立つ▽保護者アンケートで賛成が過半数を占めた―などの理由で選択制が必要とした。これを受け町教委は、小中の入学時と小学五年への進学時に、町内の十七小学校、四中学校から選択できる制度を取り入れた。 壬生小はこの春、坂野さんら学区外からの四人を含め計十七人の新入生を迎えた。「学区内だけだったら、伝統の田楽などの学習が難しくなっていた」と亀井聖校長。しかし選択制の導入は同時に、今後の児童数が見通しづらくなったことも意味する。 減り続ける児童数 保護者アンケートでも「子どもの取り合いになり、小規模校の統廃合に結びつく」などとして反対の声もあった。検討委の答申も「少子化の中、教育活性化に必要」とする一方、「児童生徒数の偏りも懸念」などと報告した。二〇〇六年度に町PTA連合会会長を務めた表崎基嗣さん(53)は「人数の多い環境で学ばせたい気持ちと、故郷で育てたい希望がある。保護者も複雑」と打ち明ける。 町内の児童数は現在、五年前より九十人少ない千五十八人。町教委は五年後にはさらに九百八十一人に減ると予測する。小規模校の統廃合が現実となる懸念は根強い。しかも、過疎地域ほど学校は地域の拠点であり、その統廃合がもたらすダメージは大きくなりがちだ。 回避するには、子どもを産み育てやすい環境づくりをはじめ、学校に通いやすい公共交通機関の整備など、総合的な対策が必要になる。さらに北広島町の場合、「昼間人口」がヒントにならないだろうか。町内には食品工場などが多く、広島市や安芸高田市などからの通勤者で昼間人口は夜間より千三百人も増えるという。定住に結びつける方策はないだろうか。 独自色はこれから そのためにも魅力的な学校づくりが不可欠となる。町教委によると、今春の選択制利用者は全員が学区の境界線近くに住む。つまり学校の特色が主要な選択理由ではないようだ。神楽、田楽、農業体験など伝統や自然を生かし、都心の子どもも引き寄せるよう、教育の充実を図る余地はまだまだ大きいのではないか。 こうした取り組みにスクールバス網整備など多様な施策を組み合わせ、さらに町外からの移入者を引きつける地域づくりと結びついたとき、中山間地域の教育の将来は確かなものになるに違いない。
(2007.6.28)
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