広島大や広島県が「集約化案」 ■医師偏在を解消 産科医師不足に対応するため、広島大や広島県が検討している産科医療の「集約化案」の概要が十九日分かった。県内七つの二次保健医療圏ごとに一〜三カ所の基幹病院を設定。都市部に偏在する産科医師を過疎地に振り向け、安全で効率的な分娩(ぶんべん)介助体制を構築するのが狙い。半面、分娩できる施設がない庄原、大竹両市は当面は現状のままとなる見通し。
集約化は、県や広島大などでつくる県地域保健対策協議会(県地対協)が昨年夏から検討。全県を視野に入れた中核的医療機関である広島大病院(広島市南区)や、総合周産期母子医療センターに指定されている県立広島病院(南区)と広島市民病院(中区)の三病院のほか、リスクの高い分娩も担える基幹病院に医師を集中させる方針だ。 二次保健医療圏ごとの基幹病院には、広島は安佐市民病院(安佐北区)など三カ所▽広島西はJA広島総合病院(廿日市市)の一カ所▽呉は二カ所▽備北は三次中央病院(三次市)の一カ所▽広島中央は今後検討▽福山・府中は国立病院機構福山医療センター(福山市)の一カ所▽尾三はJA尾道総合病院(尾道市)の一カ所―が候補に挙がっている。 いずれも、広島大が一月下旬に示した基幹病院の条件を満たすことを原則とする。産科・婦人科医師が六人▽年間分娩数が八百件▽小児科と麻酔科のバックアップがある−の三つで、今後、態勢を整えていく。弓削孟文・副学長は「基幹病院に医師を集め、当直勤務などを含めた運営の効率化を図り、地域の出産を支えたい」と強調する。 しかし、集約化案が実現すれば、基幹病院以外の病院は産科医師が減る恐れもある。医師不足で分娩をやめている庄原赤十字病院(庄原市)、国立病院機構広島西医療センター(大竹市)への医師補充も案には含まれていない。県医療対策室は「今後、地区医師会や市町、関係する医療機関との協議を進めていきたい」としている。(平井敦子、上杉智己) ▽なお残る空白地帯 【解説】産科医療「集約化」の論議が進むのは、産科医師不足が広島県でも待ったなしの状況にあるからだ。産科医師を増やす国全体の抜本対策が急務であると同時に、限りのある現在の医療資源をどう生かすのか、各地域が知恵を絞る時に来ている。 勤務がハードなうえに訴訟リスクを抱え、医師の産科離れは加速する一方だ。県内の医師供給役を担う広島大も「限界を超えている。各地の病院へ回せる医師がいない」(弓削孟文・副学長)と深刻さを強調する。産科志望の学生減少で、十分な数の産科医師を養成できていないのが実情。今回の集約化案は、数を限った基幹病院にだけ産科医師を送り込み、当面の危機を乗り切る考えだ。 しかし、実現には多くのハードルがある。例えば「黒字の産科を手放したくない」「医師が集中すれば人件費負担が大きい」などの病院側の思惑があり、都市部の基幹病院選定は難航している。 一方、分娩(ぶんべん)空白地帯の庄原市では「病院まで遠くて安心できない」と地元出産を望む声も強い。産む側をはじめ住民の理解を得るためにも、地域医療全体を見据えた体制構築の議論を深めるべきだ。(上杉智己) (2007.2.20)
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