好評の講座「ノーバディーズ パーフェクト」 乳幼児の親同士で悩みや体験を分かち合い、自分らしい子育てを学ぶ講座「ノーバディーズ パーフェクト(NP=完ぺきな親なんていない)」が好評だ。参加者から「前向きになれた」「気が楽になった」などの声が相次ぐ。核家族化による「孤育て」が社会問題化する中、中国地方の自治体でも、育児不安の緩和や虐待予防に向け、講座導入の動きが進んでいる。(平井敦子) ■進行役交え話し合い −核家族時代の不安解消
「この月齢で、こうしなければならないっていう考えが消えました」。広島市中区の主婦福井佳与さん(38)は、中区で昨年十月から始まったNPを計八回受講し、そう振り返る。 例えば、トイレトレーニング。昨年夏からおむつは毎回トイレで脱がせていたが、NP受講後はやめた。「そのうちできるようになる。そんなに頑張らなくていい」。ほかの母親の助言がきっかけだった。今は、息子がトイレに行くと言ったときだけ、連れて行く。 福井さんは「気分的に楽になったし、肩の力が抜けた」と話す。夫の転勤で三年前に高知県から広島市に移り、長男を出産した。昼間は二歳の息子と社宅で二人っきりだ。「特に強いストレスがあるわけじゃないけど、子育てしてると、一日に一度は『もーっ』と思うことがある」と打ち明ける。「ゆっくり話を聞いてもらえてうれしかったし、共感することも多かった」と喜ぶ。 NPは、カナダの保健省が開発したゼロ〜五歳の親を対象にしたプログラム。十人前後のグループによる二時間の話し合いを週一回ペースで六〜十回続ける。毎回のテーマは、子どもの発達や、しつけ、遊びなど参加者が抱える悩みや関心事から選ぶ。必ず託児のサービスがあり、子どもと離れてじっくり話せる。 認定を受けたファシリテーター(進行役)が加わるのが特徴。参加者の体験披露にとどまらず、悩みをどうすれば解決できるか、専門テキストも活用しながら、みんなで考える。問題解決の実践的な訓練になり、修了後の仲間づくりにもつながるという。 広島県内では、保健センターや公民館、保育所などの主催で昨年一年間で十講座開かれた。広島市女性教育センターで十月から開かれた講座には、十二人の定員に対して、四十人以上の応募があるなど、人気も高まっている。 山口県は、育児不安の緩和や児童虐待の未然防止をにらみ、NPを導入。昨年度から県や市などの保健師、保育士を対象にNPのファシリテーターの養成を始めた。山口県こども未来課は「従来の上意下達型の指導でなく、親の気持ちに寄り添うスタイルが効果的」とみている。 ■公的機関の協力が必要
NPのファシリテーターを務める臨床心理士の高見千加子さん(39)=広島市南区、写真=に、NPの効果や課題について聞いた。(平井敦子) ―どんな効果がありますか。 体験を共有し、「話してすっきりした」「気持ちに余裕が持てるようになった」とストレスが和らぐ人が多い。自己肯定感にもつながる。今の母親たちに、とても必要なプログラムだと感じている。 ―NPが求められる背景は。 核家族での育児は物理的にも精神的にも大変。近くに子育ての生きたモデルがなく、基本的なことを学ぶチャンスがない人が増えている。NPでは、「相手を批判しない」など、参加者がルールを決めて、安心して話せる環境をつくる。逆に言えば今、互いに一歩踏み込み、悩みを話し合うことが難しくなっているのかもしれない。 ―課題は何ですか。 より多くの母親たちに勧めたいが、ファシリテーターの数や、講座の数はまだ少ない。虐待防止の効果も高いと考えられ、公的機関が一層積極的に導入してほしい。 (2007.2.5)
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