日常的な目配り課題 福山市教委は昨年末までに、市立小・中学校の全児童・生徒に、いじめの有無などを聴く個人面談を実施した。学校でのいじめが社会問題化する中、対象が約三万八千人にも上る大規模な面談は、全国的にも珍しい試みとなった。深津小(東深津町)での取り組みを事例に、その実態と成果、課題を探る。(野崎建一郎) ■「家庭の自覚」促す声も 専門家、「相互相談」手法推す
「学校はどう? 楽しいかな」。昨年十二月中旬の深津小の昼休み。二年生の教室の一角で、小原圭子教諭が受け持つ児童を順番に呼んで話を聞いた。「うん、楽しい」。この日、ひざを交えた八人のうち七人が笑顔で答えたが、男子一人の表情が浮かない。「○○君にやっつけてやるって言われた」と打ち明けた。 同校では、事前にアンケート用紙を配り、いじめや悩みの有無を確認した。「問題なし」と判断した児童は、雑談程度で終えた。学校生活で何らかの不安やつまずきを察知した場合、放課後も使って一時間以上、話を聴くケースもあった。 ▽悪口・無視 1割弱 児童・生徒全員を対象にした面談の狙いを、市教委は「早期対応のための早期発見」とする。児童三十六人の小原学級、さらに約五百三十人の深津小全体でも「典型的ないじめ」は確認されなかった。「悪口を言われた」「無視された」などと訴えた児童は、一割弱の四十七人いたという。 深津小生徒指導主事の杉原安幸教諭(51)は、児童と教員が向き合う時間が持てた意義を認めたうえで「悪口など新たな発見はあまりなかった。日常的に子どもに目を配る教員の役割が大切だと再認識した」と話す。ただ、高学年ほど悩みのすべてを打ち明けない傾向が分かったという。 一方、市教委によると、多くの学校の教員から「人間関係のトラブルなど、把握できていない子どもたちの問題に気付かされた」との受け止めも出ている。面談を実施した昨年十―十二月のいじめの報告件数も、例年を上回る情勢だ。市教委は、三学期以降も全員面接を続ける方針でいる。 保護者は、学校への期待と相まって複雑な思いで全員面談を見つめる。市PTA連合会の池田淳二会長(48)は「面談は歓迎するが、先生が日ごろから子どもに注ぐ視線がより大切。『面談をして良かった』と胸をなで下ろす先生がいるとしたら、残念だと言えなくもない」と提起する。 池田会長は、いじめを見逃した責任を学校だけに問う風潮にも、疑問を投げ掛ける。「親子のきずなが強ければ、学校に頼らずとも、真っ先に親が子どもの異常に気付くはずなのだが…」。教育は家庭が基盤を担うとの自覚を促す。 いじめ問題に詳しい広島大大学院付属教育実践総合センターの栗原慎二助教授は「全員面談は教員と子どもの信頼関係を醸成する可能性があり、意味がある」と評価。「ただ大人がすべてのいじめを見つけ、管理するのは不可能。本質的にはいじめをしない、許さない子どもをどう育てるかだ」と強調する。 ▽子ども自ら解決 その点で栗原助教授が着目するのは、「ピアサポート」。体験学習などを通じ、子ども同士がいじめなど問題解決の能力や方法を身につける試みだ。県東部でも大学生らを交えて教育現場に徐々に広がりつつある。 深津小では、いじめ防止のために児童会が、「やさしい心」をテーマにした標語を全校募集。始業式ではいじめを扱った劇を披露した。城北中では、生徒会がいじめ撲滅に向けた七項目の宣言をした。発達段階に応じ学校で、家庭で、地域で、それぞれの「ピアサポート」を試みてはどうだろうか。
(2007.1.17)
|