分娩不能63市町村 全自治体の55・3% 訴訟リスクが拍車 離島や中山間地域で産科医師の不足が深刻さを増す中、分娩(ぶんべん)できる医療機関のない自治体が中国地方では六十三市町村に上ることが、中国新聞の調べで分かった。二〇〇六年に井原市や山口県周防大島町でも、お産ができなくなるなど、五県の全百十四市町村の55・3%にも達している。過酷な勤務実態に加え、訴訟が多いなど高いリスクが医師不足に拍車を掛けている。(伊東雅之) 分娩に対応できる病院や診療所がない中国地方の自治体は、広島県が三市六町、山口県二市九町、岡山県五市十二町二村、島根県八町一村、鳥取県十四町一村。 町村では、以前から分娩施設のない自治体が多かったが、最近は市にも広がっている。〇五年の庄原、大竹両市に続き、〇六年八月には井原市が「ゼロ地帯」になった。背景には、産科医師不足がある。唯一受け入れていた井原市民病院の常勤医師が一人に減ったため、二十四時間対応が困難になった、という。町村でも、周防大島町立大島病院が〇六年八月、常勤医師が一人であることを理由に産科をやめた。 境港市でも、お産に市内で唯一対応できる境港総合病院が産科休止の危機に直面している。医師を派遣している鳥取大が医師不足などを理由に今年三月末での派遣中止を求めてきたためだ。新たな医師確保のめどは立っておらず、「ゼロ地帯」の拡大に歯止めがかかる様子はない。 広島大の弓削孟文・副学長(医療担当)は「労務環境の厳しさや、医療事故のリスクの高さから産科医師志望者が激減しているのが主要因」と指摘。対応策として医療機関同士のネットワーク化の必要性を強調する。ただ、医師の養成や労働環境の改善は医療機関任せでは不十分。国や自治体も巻き込んだ抜本的な対策を探る必要性がある。
(2007.1.3)
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