指導力不足対策 答えなく 県教委 研修見直しに懸命
「子どもとうまくコミュニケーションが取れない」「授業を一方的に進める」―。文部科学省の調査で、全国の公立学校で「指導力不足」と認定された教員は2004、05年度と2年連続で500人を超えた。広島県内でも05年度、県教委が15人、広島市教委が5人の計20人を認定している。指導力不足教員にどう向き合い、生み出さない工夫をしているか。県教委の取り組みを見た。(村田拓也) 東広島市八本松に、学校の校舎と見まがうような建物がある。教員の資質向上や指導力の充実に取り組む県立教育センターだ。指導力不足教員を現場に復帰させるための拠点でもある。 協調性向上へ 研修には三パターンある。原則センターで九カ月研修し所属校で三カ月研修▽原則は所属校で九カ月、三カ月間がセンター▽所属校での研修が中心でセンターでは月二日の通所―だ。どのパターンかは、弁護士や精神科医師ら八人でつくる判定委員会を経て決まる。 センターのカリキュラムは、教職の使命感を学ぶ「基礎教養」、子どもの状況把握など「学級経営」、教科指導技術を身に付ける「学習指導」など。花壇で野菜や花を栽培し、NIE(教育に新聞を)教育の資料を作るなどの取り組みもある。企画部の三宅啓介主任指導主事(47)は「改善すべきコミュニケーション能力や計画性、協調性を高めている」と説明する。 最も重要なのは「粘り強く指導すること」だと三宅さんは指摘する。指導力不足教員の多くは四十、五十歳代で教員歴が二十年を超える。「自分自身の課題を発見できた人は現場復帰も早い」と三宅さん。本年度から新たに、コミュニケーション能力を高める講座を加えるなど、内容を充実させている。 学校長が、県教委や市町教委と連携して進める所属校研修では、授業の観察や研究、模擬授業などをする。その人に応じたカリキュラムを組み、復帰を目指す。 34%依願退職 県教委によると、認定が試験的に始まった〇一年度以降、これまでに六十一人が指導力不足と認定された。その中で現場復帰できたのは約半数の三十人。うち一年以内の研修で復帰したのが十八人だった。一方で依願退職したのは全体の34%の二十一人に上る。残り十人のうち、八人が研修中で、一人は休職、一人は県教委事務局に勤務している。 「退職者が多いのは学校の研修が不十分だからではないか」。県教職員組合の西迫利孝書記次長(47)は分析する。「研修の三年目に『教師に向いてない』『やめた方がいいんじゃないの』と、校長ら管理職から言われた例もある」と批判する。 別の事例では認定者が朝から学校に行くと「自分で考えてやりなさい」と校長から突き放された。この教員は数カ月で退職したという。「認定手続きの出発点は校長。職場復帰に責任を持ってほしい」と注文する。 腰据え対話を 県教委は本年度に研修制度を見直し、教職員の人材育成の柱に「校内における研修」を位置付けた。学校経営のトップである校長が、教職員一人一人の人材育成を計画的に推進。これまで中心だった校外研修と、自発研修との組み合わせで指導力を向上させる狙いだ。 センターも指導力不足教員を生まない土壌づくりを進める。〇五年度には、研修で新規採用教員の疑問や悩みを受け付けて回答する「クエスチョンタイム」「アンサータイム」を設けたり、教員の悩みを個別に支援する「ヘルプ&サポート相談事業」を始めたりした。 県教委の下崎邦明教育部長(55)は「さまざまな原因で指導力不足となっても大事な戦力。研修で原因を明らかにし、センターや学校の連携で力を発揮できるようにしたい」と強調する。じっくり腰を据えて認定者と向き合う姿勢が、よりいっそう求められている。
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