【社説】 また子どもを死なせてしまった。それも周囲がSOSを受け止めていたのに。児童相談所の対応の検証と合わせ、万一の際は関係機関の協力が確実に機能する地域ネットの構築を急ぎたい。 京都府で三歳の男児が餓死し、父親(28)と同居女性(39)が逮捕された。女性は九月中旬からほとんど食べさせていなかった。男児は標準体重の半分の約七キロだった。 やりきれないのは、近所の人たちがこの家庭を心配していたからだ。子どもの泣き叫ぶ声は昨年から聞こえていた。今年三月下旬には男児の姉(6)が夜中に外にいた。体にあざが見つかるなどし、警察経由で児相が保護した。 それだけに、姉を助けた男子大学生は「自分の責任でもある」と悔しがっている。自治会長は「助け出したいくらいだったが、(権限がなく)立場上できなかった」と無念を隠さない。 児童相談所の責任は重い。六月から死亡の六日前まで、住民から相談を受けた民生委員が再三通報している。しかし父親の説明を信じ込み、立ち入り調査もしなかった。姉の問題を考えると、あまりに鈍感ではないか。警察との意思疎通もできていなかった。 周囲の通報が生かされず、子どもが虐待で亡くなる事件は絶えない。五月の広島市の場合、児相が八カ月間追いながら有効な手が打てなかった。福島県の児相は事実上問題を放置していた。 虐待は従来、通報をためらう人も多く表面化しにくい面があった。法改正により昨年から、学校や病院は「虐待かもしれない」段階で児相に通告義務が課せられ、市と町は相談窓口を設けた。SOSの受け皿は拡充しつつある。 ただ相談件数は右肩上がりで、昨年は過去最多の約三万四千件。肝心の児相の対応は限界に近い。広島県も法改正で相談が市町経由で段階的に上がるようになり、少し息をついたという。従来は疲れ果てて体を壊す職員もいた。 児相を拠点に学校や医療関係、地域の世話役から民間組織まで重層的に子どもを守る体制をつくりたい。市町の職員の研修も欠かせない。警察とは、家庭との信頼関係に配慮しながらの情報交換が必要だ。自治体は財政難だが、現場の人員増にも努力してほしい。 十一月は児童虐待防止推進月間。「あなたの『もしや?』が子どもを救う」の標語が悲しい。子どもが安心して生きられる社会は、少子化対策の大前提である。 (2006.10.24)
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