中国新聞


公立小の校内暴力深刻化
教諭同士の連携促進を


 ■2005年度文科省調査 保護者とも協力必要

 児童が教師をけるなど公立小学校で校内暴力が深刻化している実態が、文部科学省が九月にまとめた二〇〇五年度の問題行動調査で浮かび上がった。中国地方五県でも、件数が最多の広島で二年ぶりに増加するなど同様の傾向が見られる。学級担任制が基本のため、小学校では担任が問題を抱え込んで深刻化する事例が目立つ。教員間の情報交換が活発な風通しのよい学校づくりと、問題が起きた時に保護者も巻き込んで組織的に対応できる態勢の構築が必要だ。(報道部・村田拓也)

グラフ「校内暴力発生件数の推移」

 〇五年度の公立小学校での校内暴力の件数が九十七件と、五県全体の46%を占める広島県。県東部の小学校で働く四十歳代の女性教諭が自らの二年前の体験を明かした。

 手や足が触れたというささいな出来事が、児童のけんかにエスカレート。仲介に入ると気に入らないのか、すねをけったり体を押したりしてきた。「くそばばあ」。児童から暴言も投げかけられたという。「これまでも気性の荒い子はいたが、けったりつねったりは初めて」と振り返る。

 ▽みんなで知恵

 同僚が相談に乗り、給食時間などには教室へ手伝いに来てくれた。家庭訪問には管理職が同行し、保護者に学校の指導方針などを示した。

 こうした積み重ねで、次第に雰囲気は良くなった。「担任にはクラスは自分でどうにかしなきゃとの思いがある。でもみんなの知恵を借り、学校全体を良くしようとの意識が大切だ」との教訓を女性教諭は得た。

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ハンドブックを手に、寺西小の教諭に今後の改訂作業のポイントなどを説明する沢田係長(左奧)。沢田さんの右隣が冨吉教諭

 広島県の公立小の〇五年度の校内暴力のうち、教師相手はほぼ二割に当たる二十件。加害児童は高学年が目立つ。対応が遅れたり、保護者の協力が得られなかったりした場合には、繰り返す傾向があるという。中国五県では計四十件と〇四年度の一・五倍になり、三年連続で増えた。

 広島県教委は対策として「組織的な対応」を掲げる。「担任が問題を抱え込むのではなく、早い段階から学校全体で指導することが重要」と、指導三課の平盛吉昭課長。〇四年度から小学校にも生徒指導担当を置くなど対策を進めている。

 小学校の生徒指導を独自施策で充実させようとする自治体もある。東広島市教委は〇五年四月、小学校の教員向けに全国でも珍しいという「生徒指導ハンドブック」を作成し毎年改訂している。〇四年度からは、四校を上限に「小学校生徒指導研究指定校」に指定し、組織的な指導体制の確立に取り組む。

 「非行の低年齢化が進み、小学校での問題行動は増加傾向にある。校則で細かく定められている中学校とのギャップを埋めるためにも、小学校の生徒指導は重要」。市教委青少年育成課の沢田直哉青少年係長は狙いを語る。〇五年度の校内暴力は器物損壊の二件。〇四年度の三分の一になった。

 ▽現場の声反映

 沢田係長は三日、指定校の一つ寺西小を訪れた。来年度版のハンドブック改訂作業を控え、現場の声を聞くためだ。生徒指導主事の冨吉福美教諭らに「規範意識の項目を加えたい。どう指導していくかなど意見を挙げてほしい」と要請した。

 本年度の改訂版発行にかかわった冨吉教諭は「研修などで教員が情報を共有でき、みんなで子どもにかかわることができる」とハンドブック作成など市の独自対策に手応えを感じる。「問題行動が起きるのを恐れるのではなく、何か起きたときに学校も親もしっかりかかわることで子どもは伸びる」とも強調する。

 保護者側も学校に責任を押し付けず、自らの問題として真剣に向き合う。小学校での校内暴力を減らすには、そんな関係の構築に向けた取り組みが欠かせない。


問題行動調査 正式名は「生徒指導上の諸問題の現状について」。児童生徒の問題行動を把握し、生徒指導を充実させるのが目的。1966年度の不登校から順次、調査項目を拡大し、現在は児童生徒の自殺者や高校の中途退学者、いじめの発生件数なども調べている。暴力行為には対教師▽生徒間▽対人▽器物損壊―の4形態があり、うち校内のみが対象の器物損壊を除く3形態では、校内、校外別に数値を把握している。

(2006.10.6)


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