中国新聞


中学生の妊娠 性教育は勇気を持って


 【社説】広島市の女子中学生が、この夏出産する。相手も中学生。うわさによって周囲が妊娠に気付いた時には、中絶できる時期を過ぎていた。生まれる赤ちゃんは、女子中学生の親が育てるという。

 望まない妊娠は、本人を傷つけるだけでなく、多くの人を困惑させる。みんなの祝福を受けずに生まれた子のハンディも大きい。きちんとした性教育によって、こうした事態を防ぎたい。

 十代の妊娠を数多く見てきた広島市の産婦人科医師、河野美代子さんは、避妊せずに性交をすれば妊娠につながる―という実感が、女の子にあまりに薄いと感じる。

 男の子から迫られると「嫌われたくない」「断りにくい」とつい体を許す。問題も起こさず成績もいいような子ほど、妊娠したことを誰にも言えず、結果として手遅れになりやすい。

 開業から十年で、中学生は三十五人が妊娠し、五人が産んだ。高校生は三百九十三人で、三十五人が出産した。ほかの病院も含めるとどれほどの数字になるのか。

 望まぬ妊娠で体と心に負担がかかるのは圧倒的に女生徒の方だ。だからこそ女生徒には身を守る判断力を、男生徒には相手を思いやる自制心を育て、仮に合意して性行為に至っても確実な避妊をするよう教えるのが性教育だろう。

 性交まで教えるのはまだ早い、と大人は思っていても、ネットや雑誌などにはいびつな性情報があふれている。その気になればすぐ手が届く危うさ。その前に正しい性知識を勇気を持って伝えるのが、子どもを守る近道と考える。

 こうした考えから独自の教材による性教育を手がける学校も、一時は全国的に広がっていた。ただ残念なのは、コンドームなどを取り上げたことで「過激な性教育」と誤解を受けたこと。二〇〇三年にはバッシングが起こり、各地の教育委員会は神経質になった。

 広島市でも、市教委が学校から報告書を出させて「指導要領からの逸脱」を正したり、前年まで続けていた民間の性教育セミナーの後援を打ち切ったりした。過剰防衛とも見える対応だった。

 そうした流れに教師の多忙も手伝い、今は性教育は切り捨ての傾向だ。「性教育の時間があったころは保健室で生徒がフランクに性の話をしてくれていた。今はそんな雰囲気がなくなった」とある中学校の養護教諭は憂う。

 それでいいのか。あらためて産婦人科の現実を直視したい。

(2006.8.21)


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