中国新聞


息子3人に障害 呉の佐々木さん
育児16年 エッセー集出版


 ■仲間がいる 不幸ではない

 障害のある三人の息子を育てている呉市の主婦佐々木志穂美さん(42)が、十六年間の泣き笑いの育児体験をつづったエッセー集「さん さん さん―幸せは、いろんなかたちでそこにある」を出版した。本音で話せる仲間に恵まれた日々に、「障害は不幸ではない」と実感を込める。(馬場洋太)

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「私の日々を紹介することで、日常の幸せを感じて生きていく仲間が増えたらうれしい」と話す佐々木さん

 佐々木さんは、重度の脳障害の長男(16)、知的障害のない高機能自閉症の二男(15)、知的障害を伴う自閉症の三男(12)、会社員の夫(50)と五人で暮らす。十六年前、生後二カ月の長男に障害の診断が下った。「道端の溝が川に見え、飛び込んで死のうと思った」と、エッセーは、障害との付き合いが始まったその日から記憶をたどる。

書いて心整理

 二男、三男もパニックを起こし、しばしば暴れた。自力で飲食できない長男を施設に預けるまで、化粧をする余裕もなかった。

 そんな佐々木さんを救ったのは、「手紙魔」の習慣。息子たちに異変があるたび、ペンを執った。家じゅうの落書き、石ころの誤飲、思春期になってからは学校でのいじめ…。尽きないネタを「旬のうちに」と、連絡帳や郵便、ファクスなどで保育士や母親仲間らに伝えた。書くことで気持ちの整理にもなった。

 持ち前のユーモアも幸いした。ある日、パニックを起こした三男が佐々木さんの腕にかみついた。「腕が腫れたでしょう」と気遣う親友に、「太さは元からよ」と冗談で切り返し、事件は笑い話に早変わりした。

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障害児の育児体験をつづったエッセー「さん さん さん」

迷い もうない

 さらけ出すうちに、評判の良い医師の情報が続々と集まった。経験豊富な医師は、診察室で頭突きをして回る三男を、拍子抜けするほどの笑顔で受け入れた。「つらいとき、『親だから』とがんばりすぎなくていいんだ。…私は、すこぉし、かしこくなった」(本文から)。その日の心の動きを、軽やかなタッチで書き記す。

 「障害児の母だからこそ、多くの人たちと出会え、本当の友達になれた」とも感じている。自閉症に合った教え方や遊び方を工夫する教師や同級生の子どもたち、世話で忙しい時に総菜を差し入れてくれた知人など、数多くの支えがあった。

 成長につれ、二男は絵画、三男は書に自信を持ち始め、親としての誇らしさも芽生えてきた。「みんなと一緒」の意識を捨て切れなかったころの迷いは、もうない。今では、「本人たちは障害があって生きにくいかもしれない。でも息子たちと障害がセットなら、うちに産まれてきてくれて良かった」と心から思える。

 四十歳を機に、体験をまとめたいと思い立ち、長編の執筆を決意。母から子にあてた手紙のコンテストで大賞を受けた際、審査委員長の芥川賞作家、玄侑宗久氏にも勧められ、意を強くした。

 昨年の夏休みに、宿題に挑む二男の傍らで三十五章を一週間で書き上げ、新風舎出版賞に応募。初挑戦で大賞に輝き、出版が決まった。タイトルの三つの「さん」は、「三人の太陽(Sun)のような息子(Son)たち」の意味。息子たちの描いたイラストも各章の冒頭を飾った。

 「同情してもらう必要はない。でも、助けは要る」と佐々木さん。「障害者がどんな時につらく、うれしいかを知ってもらう手掛かりになれば」と願っている。

 本は四六判、一八四ページ。新風舎から千三百六十五円で発売。

(2006.7.3)


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