お産・健診 分業で効率化 ■今夏導入の県立広島病院 上田部長に聞く
お産を扱う産婦人科が減る現状を踏まえ、妊婦健診が中心のクリニックと、お産を担う拠点病院が役割分担や連携を進める「産科オープンシステム」が全国で広がりつつある。中国地方では、岡山県に続き広島県もこの夏から県立広島病院(県病院)=広島市南区=で導入する。上田克憲産科部長に、システムの狙いや産婦人科の医師確保策を聞いた。(馬場洋太) ▽医師不足の緩和にも力 ―オープンシステムで何が変わりますか。 登録制のネットワークをつくるため、お産と健診を別の医療機関でする場合、双方が情報を共有しやすくなる。例えば県病院で産む予定の妊婦が健診だけ自宅に近いクリニックにかかる場合、県病院とクリニックが健診データを共有しておく。もちろん、一貫して県病院にかかりたいとの希望を断るわけではない。
―妊婦にとってのメリットは。 血液検査の結果や胎児の大きさなど母子手帳に記載しないが大事なデータを、健診のたびにファクスなどで県病院に知らせてもらうため、休日や夜間の急な出血などで県病院を受診してもスムーズに対応できる。 クリニックで健診を受ける場合に、妊娠初期に一度は県病院を受診してもらう独自の仕組みも取り入れたい。高齢の妊婦が増えるにつれ、糖尿病や高血圧など難産を招きやすい疾患が見つかる人も多く、精密な検査をする必要があるからだ。 ―なぜお産を扱わない産婦人科が増えているのですか。 異常が一瞬のうちに起こる出産医療に対応するには二十四時間体制が必要。その上、不幸な結果になれば訴訟にもつながりかねない。医師からみると「分が悪い」診療科だ。医師一、二人ではリスクが高すぎるとみて、お産の扱いをやめているのだろう。 ―国はオープンシステムを産科医師の確保策と位置付けています。 拠点病院でのお産を希望する妊婦に、システムを利用して地域のクリニックで健診を受けてもらえば、拠点病院で昼夜問わず働く勤務医の負担が減るのは確かだ。労働環境が改善すれば、開業したり内科に転向したりする医師が減るかもしれない。ただ、システムの利用はあくまで自由なので効果にも限界がある。 ―抜本的な産科の医師確保に何が必要ですか。 勤務医の燃え尽きを防ぐ策が不可欠だ。今働いている医師が過労で拠点病院のお産の現場を離れれば、オープンシステムすら成り立たない。今、若い産婦人科医師の過半数は女性。育児中なら、平日の昼間だけでも常勤医として雇うなど多様な働き方を認めてほしい。 国が公務員削減の方針で、公立病院の医師の増員が難しいのは分かるが、このままでは産科医療は縮小の一途だ。今は農村部や離島で目立つ産婦人科医師の不足が、近い将来、広島市などでも起こり得る。大胆な発想の転換が必要だ。 (2006.6.21)
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