手薄な支援 将来に不安 保護者の声 日赤広島看護大教授が調査 脊髄(せきずい)性筋委縮症や筋ジストロフィーなどが原因で、人工呼吸器を着けて生活している中四国地方の子どもについて、日本赤十字広島看護大の鈴木真知子教授(小児看護学)が初めて詳しい実態調査をした。保護者の多くは、子どもたちの社会参加が進むことを願っているが、社会の理解の低さや支援の不十分さもあって将来に強い不安を感じていることが明らかになった。(北村浩司) ■多くは付き添って通学 / 「自律」力の養成を願う 鈴木教授は、子どもたちが幸福を追求するため、自分のことは自分で決定する「自律」という観点に着目。医療機関や患者家族会などを通して保護者にアンケートを送り、〇歳から十八歳の四十三人の保護者から回答を得た。 半数 よく外出 うち、三十人が気管を切開して呼吸器の管をつないでおり、二十一人が二十四時間呼吸器を着けて生活している。米国では、鼻マスクなどで呼吸器とつなぐ方法が普及して生活の質を高めることに成功しているが、日本では医療的なケアが欠かせない気管切開への依存が高いことがわかった。 二十四時間着けているうち、七人はほとんど意思を伝えることができない。外出をよくする子どもは半数の二十一人だったが、逆に「めったにしない」も八人いた。 教育については、二十九人が幼稚園や小中高校、養護学校などに就園、就学中だった。二十四時間着けている二十一人のうち十三人が就園、就学していたが、一般の学校に通う七人のうち介助員が配置されているのは二人だけだった。 一般の学校や幼稚園に通う子どものうち、介助員などの特別な配置(加配)がない全員が親が付き添って通学せねばならず、加配があっても親が付き添う例も四人いた。また、学校での痰(たん)の吸引など医療的ケアは、親が付き添ってするケースが大半だった。 学校現場で、医療的ケアを必要とする子どもへの理解や受け入れ態勢の不十分さなどに不満が目立った一方で、子どもの社会参加が進んだことなど、「学校へ通わせて良かった点」を記述する保護者も目立った。 子どもを育てる上での意識について聞いた各種の質問には、「自分の意思をはっきりと表現できる力」「周囲の人との関係性」などへの思いを書いた答えが目立ち、「自分の意思に基づいて対人関係を築いていってほしい」と願っていることがうかがえた。 将来への不安については多くの項目を記入する保護者が目立ち、「家族がいなくなったら」「今後の介護力」など、誰が子どもを支えていけばいいか強い不安を抱いていることがわかった。 「広く知って」 鈴木教授は「保護者の多くは、子どもたちが、社会へ出て対人関係をはぐくむことを強く望んでいる。しかし、社会の理解が低く、全国でのきちんとした実態調査さえされていないのが実情だ。まず、人工呼吸器を着けている子どものことを広く知ってもらう必要がある」と訴える。 一方で、介護支援については「訪問看護の時間が短く、小児看護に詳しいスタッフも少ないといった問題点がある。子どもの呼吸ケアができる拠点施設を増やすなど、病院に依存せずに自律した生活を営める仕組みを整える必要もある」と提言している。 当事者の生の声に学ぶ 10日、廿日市で「集い」 人工呼吸器を着けて生活している人たちの声を聞く集いが十日、廿日市市阿品台東の日本赤十字広島看護大で開かれる。 当日は、人工呼吸器を着ける生活をしながら、楽器の演奏やスポーツに取り組んで夢の実現に努力している若者が、日ごろの生活で感じていることを話し合い、障害や自律について考える。 同大では五月四日にも、二十四時間呼吸器を着けながら地元の小学校に通っている、滋賀県の小学三年生田中茜吏ちゃん(9)たちを招いて交流会を開いた。鈴木教授は「直接、当事者の話を聞く中で、よりよい支援のあり方を考えたい」と話している。Tel0829(20)2848 (2006.6.3)
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