大人のメンター 子どもの味方 広島市導入1年 SF映画「スター・ウォーズ」で主人公を導く老師オビ=ワンのように、家族、教員以外の大人が一対一で青少年と交流しながら成熟を見守る「メンター」制度。日本の自治体で初めて広島市が小・中学生向けに二〇〇五年度導入(〇四年一月から試行)し、二年目を迎えた。共働き家庭などで効果を見せる制度の普及に、十八日から利用家族向け説明会を開く。(石丸賢)
小学四年の竹川滉一君(9)=同市東区=には六十歳近くも年の離れた「友達」がいる。週に二日、共働きの両親に代わって自宅の玄関前で帰りを待っていてくれる。「先生は優しい。お父さんと違って怖くないし。先生がいるからもう寂しくない」 滉一君が「先生」と呼ぶのは、同じ東区に住む元中学校長の松陰正行さん(67)。試行段階からのメンターだ。週二度の交流日には約一時間半、一緒に宿題や野球などの遊びをしながら過ごす。何げない対話も心のキャッチボール。学校での様子を聞きながら、滉一君の心模様をうかがう。
「核家族で共働きという家庭が多く、普通の子も孤独で居場所のない時代。子どもの心の声に耳を傾けるメンターの役割はとても大事だと思う」と松陰さん。人見知りが薄れ、外で友達と遊ぶ滉一君の姿に目を細める。 市の公募に応じて登録中のメンターは現在、男女計八十一人いる。年齢は二十代から七十代まで幅広く、女性が約七割を占める。本格稼働の〇五年度には登録者の約半数の四十二人がプロテジェ(子ども、被支援者)を受け持った。 市教委青少年育成部で事務局を受け持つ長谷川洋さん(42)は「メンターとの交流継続を望む家庭が多いのも成果の表れ」とみる。中学卒業や転居に伴う終了を除けば、「継続」希望は毎回七割を超す。 「メンターと出会ってぼくの心に窓が開いた気がする」。プロテジェの一人で中学三年まで約五年間、不登校の続いていた保田光一郎さん(16)=安佐北区=は昨年春、通信制高校に進んだ。日本舞踊という世界にも出合い、今年四月には初舞台も踏んだ。 週に一度、交流したメンターの森吾六さん(71)=同区=とは、よく絵手紙を描いた。描きあぐねていると、「(写生する)物をよく見て」が森さんの口癖だった。帰り際に必ず握手してくれたぬくもりも覚えている。今年三月で制度利用をやめた後も絵手紙をくれる。「忘れないでいてくれるのがとてもうれしい」と話す。 事務局の悩みは「非行や何か問題を抱えた子どもだけの制度と誤解する向きが、家庭にも、橋渡し役の学校側にもある」。松陰さんたちメンターも「登録者の半分ほどしか活動しておらず、もったいない」「どんな子どもにも有意義な制度」と活用を勧める。 「メンター」制度説明会は、市内八区を巡回する。日時、会場は次の通り。 十八日午後七時=佐伯区民文化センター、市役所北庁舎別館(中区)▽二十日午後七時=東区民文化センター、安佐南区民文化センター▽二十三日午前十時=安佐北区民文化センター、草津公民館(西区)▽同日午後二時半=安芸区民文化センター、南区民文化センター。 市教委青少年育成部Tel082(242)2116。
(2006.4.17)
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