中国新聞


「安心の格差」
出産医療 是正進まず
06年度広島県当初予算案から


 ■新事業 「高度」充実に集中

 「今後、どう運動を続ければいいのか。途方に暮れている」と、庄原市の出産医療の再開を求める市民の会の代表、小笠原洋行さん(53)は漏らす。産科医師の不足を理由に、出産医療を休止している庄原赤十字病院(庄原市)の土肥博雄院長が今月二日、今春の「再開」断念を明らかにしたからだ。

 断念は、協力を依頼していた広島大から「医師の派遣は難しい」と回答されたのが理由だ。小笠原さんは年明けに広島県庁を訪ね、約一万二千人の署名を藤田雄山知事に提出した。日赤県支部長でもあり、地域医療を支える県のトップでもある藤田知事の「後押し」に期待を掛けていただけに、ショックを隠さない。

 「かつて庄原市は都会から里帰りして産む場所だった」と小笠原さん。「今は『出産ができん』と敬遠され、若い人には不安が募る一方だ。県は、中山間地域と都市部の医療格差を埋めてほしい」と訴える。

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1万2千人分の署名を提出し、藤田知事(右)に庄原市での出産医療再開を要望する小笠原さん(中)ら(1月5日)

増加分 大半は義務的

 藤田知事は十四日、新年度当初予算案発表の記者会見で「『安心づくり』にかなり(予算が)いってると思う」と強調した。「安全・安心に産み、育てられる環境づくり」を目指し、「子育て・高度医療」に約七十六億円を計上。昨年度当初に比べて約二十億円(35・7%)の伸びを確保した。

 だが、増加分のうち約十五億円は、児童手当の対象年齢の拡大と、所得制限の緩和という国の制度改正に伴う、いわば義務的な支出だ。

 新たに県が打ち出した事業は、県立広島病院(広島市南区)の機能強化の約五千万円(別に病院事業会計で六億五千万円)や、がん対策推進事業(約一億円)などが主流となる。

 県立広島病院を小児・母子の高度医療の拠点施設と位置付ける県は、今春に小児腎臓科(仮称)を、二〇〇七年度には不妊治療を担う生殖医療科(同)を開設する。福祉保健部の新木一弘部長は「晩婚化に伴い、不妊治療や高齢出産での異常分娩(ぶんべん)への対応など、高度医療へのニーズは高い。水準を高める努力は欠かせない」と強調する。

医師確保へ奨学金制

 一方で、医療格差の是正をにらむ新たな事業は、中山間地域の内科医師に小児医療を担ってもらうため約八百万円をかけて研修などをする。さらに、中山間地域での勤務を志す医科大生らを対象にした奨学金(応募枠二人)にも約五百万円を充てるが、見劣りは隠せない。

 県内で出産や小児医療にかかわる医師は、県にデータが残る一九九八年度から六年間で産科・産婦人科が11・6%、小児科が9・3%減った。

 医師の不足が深刻な中で、中山間地域への支援対策が十分でなければ、医療格差は拡大する。医師の拠点病院への集約は格差の拡大に拍車を掛ける恐れもはらむ。

 常勤の産科医師がいない庄原赤十字病院は、三次市立三次中央病院での出産を奨励する。だが「最も遠い所から、積雪時は車で二時間かかる」と小笠原さん。医師不足対策の奨学金制度は評価するが「即効性がない」とも嘆く。医学部での六年間、初期臨床研修の二年間を経た八年後でなければ、奨学金を受けた医師の本格勤務は始まらない。(守田靖)


広島県内の医師不足 県や県医師会、広島大などでつくる「県地域保健対策協議会」が昨年1―2月、県内221病院を対象に調査し、172病院から回答を得た。医師不足を「大いに感じる」が51%、「少し感じる」が37%で合わせて88%の病院が不足を訴えた。

(2006.2.17)


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