中国新聞


広島の保育園併設住宅 子育て支援の拠点に


【社説】 働く親にとって子どもの預け先は切実な問題だ。その切り札として広島市近郊の広島県坂町に、県と坂町が共同で保育園併設の集合住宅を建設している。子育て支援の公営住宅は中国地方では初めて。国を挙げて少子化対策を模索している中、新しい試みを定着させ、子育て拠点の役割を担いたい。

 来月末に完成予定の「平成ケ浜住宅」はJR呉線坂駅から歩いて七、八分。近くには町役場や大型店もある。八階建て八十戸のうち、子育て世代向けは五十戸。その入居条件は「入居時に未就学児がいる世帯」などとしている。玄関にはベビーカー用のスペースを設けるなど細かな配慮もうれしい。

 魅力的なのは、隣接して新設される民間委託の保育園に優先的に入園できることだ。定員は乳幼児を合わせ七十人。既存の町立保育所では実施していない午後七時までの延長保育や、園児以外の子どもを預かる一時保育も受け入れる。募集を締め切った県営分二十九戸の倍率が八倍という狭き門だったのも、好条件を反映している。

 注目すべきは応募のほとんどがUターン、Iターン組という点だ。町出身者は「頼りになる親や兄弟姉妹の近くで子育てしたい」と願い、広島市や呉市などからの転居者は「子育て環境が整っていれば、引っ越しもいとわない」という思いが読み取れる。

 つまり、地域全体で子どもを育てようとする環境に期待しているといえよう。そのためにも、次の二点に力を入れていきたい。

 一つは、相談窓口の充実である。保育園内には「子育て支援センター」が設けられる。保育士や保健師ら専門家がアドバイスするが、園の保護者だけでなく、妊婦や専業主婦など幅広く利用できる工夫が欠かせない。町立保育所や育児サークルとの連携を深める必要もあるだろう。

 もうひとつは、世代間交流の推進である。保育園の隣には集会所も整備される。一次的には住宅入居者同士のコミュニティーの場であるが、高齢者と子どもたちの積極的な交流を図りたい。地元の小中学生が総合学習の一環として乳幼児とふれあう機会を設けることも考えられる。

 坂町が子育て世代を呼び込もうとする背景には、少子化への強い危機感がある。二〇〇五年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)は一・〇九と年々低下傾向にあり、六年連続で全国平均を下回る状況だ。

 県と町はさらに敷地内に二棟の建設を計画している。計三棟二百二十戸で、うち子育て世代向けには百戸を整備する予定だ。「安心して子どもを産み、育てられる町」のモデルとなるよう、行政と住民の知恵に期待したい。

(2006.1.22)


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