広島大・利島教授ら ■においで血流が活発に 「キレ」る現象とも関連か
粉ミルクより母乳のにおいが、赤ちゃんの脳の感情をつかさどる部位の血流を活発にする―との実験データを、広島大大学院教育学研究科の利島保教授(心理学)のグループが明らかにした。情緒の発達に母乳が役立っている可能性を裏付けた。(馬場洋太) 研究グループは、においや味の感知と、情緒コントロールの役割を併せ持つ「前頭眼窩(がんか)」と呼ばれる目の奥の部位に着目。赤外線を使う計測法で二〇〇四年夏から半年かけ、においをかぐ前後の血流の増減を調べた。
広島大病院で生まれて一週間以内の赤ちゃん十七人を、(1)母乳だけを飲む(六人)(2)粉ミルク、母乳の両方を飲む(六人)(3)未熟児、母乳の出が少ないなどの事情で砂糖水だけを与えている(五人)の三グループに分けて実験。それぞれの親の母乳、粉ミルク、砂糖水を染み込ませた三種類のガーゼのにおいを、三十秒間ずつかがせた。 結果、三グループとも、母乳をかいだ時に最も血流が増加。粉ミルクのにおいには、粉ミルクと母乳の両方を飲んだグループしか、血流増の反応がなかった。
成人相手の実験で「前頭眼窩」の血流は、好きなにおいをかぐと増え、嫌なにおいだと減る反応が明らかになっている。利島教授は「赤ちゃんは、母乳のにおいを最も好んでいる」とみる。 前頭眼窩を中心とした神経ネットワークは、生後一年以内に完成するとされている。ネットワークの未発達が情緒面の障害を招き、「キレ」たり、ストレスへの適応能力が弱くなったりするなどの現象を引き起こすのではないか―との学説が有力になっている。 利島教授は「母乳のにおいが前頭眼窩に血液を多く運び、細胞の成長を促し、神経ネットワークの発達の必要条件になっているのではないか」と分析している。 刺激が脳を鍛える可能性 赤外線による脳活動分析に詳しい香川大医学部の磯部健一助教授(小児科学)の話 新生児の脳の活動は調査が難しく、研究例が極めて少ない。今回のデータは貴重だ。粉ミルクと違い、母乳は母親の食事内容でにおいが変わるので、その刺激が赤ちゃんの脳を鍛えている可能性もある。 (2005.12.19)
|