学校の自主性尊重を 広島県教委は、卒業・入学式での国旗掲揚、国歌斉唱に関する詳細な調査を、五年間続けている。全公立学校の校長に報告を求める内容は、声の響き具合や起立しなかった子どもの数にまで及ぶ。調査は、国の是正指導を受けた後、学校への指導管理を強めた県教委の姿勢を象徴する。その指導から既に七年になる。学校の自主性を重んじる対応を探る時期が来ているのではないか。 (金刺大五)
■管理強化に疑問の声/保護者、学力や体力望む
「式場内に響き渡る歌声であった」「響き渡るとはいえないが、歌声は十分聞こえた」「歌っているとはいえない歌声であった」―。国歌斉唱に関し県教委が、校長に声量の報告を求める調査の選択肢である。報告書には、子どもが立たない場合、その概数を記入する欄も設けている。 式前「見通し」要求 調査は二〇〇一年春から卒業・入学式の前後に毎年実施している。式前には「見通し」の報告を求める。県教委は、校長の指導手順を示したマニュアルも合わせて送る。その内容は、不起立の教職員には駆け寄り「起立してください」と周囲に聞こえる声で伝える―など約三十項目にわたる。 ここまで県教委が徹底する背景には、一九九八年五月の文部省(当時)の是正指導がある。その指導は、国旗掲揚、国歌斉唱の指導充実をトップ項目に掲げた。県教委は強力な指導を進め、公立学校の実施率は五年連続で100%となった。 しかし、四月の県立学校長会議で、県教委側は約百人の校長にこう伝えた。「形の上では実施しているが、内容の充実を図ることが課題」。100%実施の一方で、国歌斉唱の際に起立しない教員もいるためだ。今春の入学式では、不起立を理由に八人が処分を受けた。 他県実施の有無程度 中国地方の他県の調査手法を見ると、いずれも掲揚、斉唱の実施の有無を調べる程度だ。岡山県教委の担当者は「100%実施が続き、詳しく調べる必要性がない」とする。文部科学省教育課程課も「調査の在り方は、各教育委員会が適切に判断すること」と説明する。 「国旗、国歌を尊重する本来の目的を逆に阻害する」。教育評論家の尾木直樹氏は、広島県教委の調査手法に疑問を投げ掛ける。「調査内容は学校を管理、統制する手段となり、強制力を帯びている。それよりも国旗国歌の指導の在り方について、もっと丁寧な議論をすべきだ」と指摘する。 県教委の幹部の一人は「自然に国歌が斉唱されれば、こうした調査は不要」と言う。一方で実施率が低かった是正指導前に「逆戻り」することへの警戒心もある。「調査を見直す見極めが難しい」と幹部は漏らす。 校長を「伝達役」に しかし、事細かな調査やマニュアルは、リーダシップが求められる校長を、教育委員会への「伝達役」にしている側面は否めない。児童・生徒にとって大切な行事に、過度な監視ムードを持ち込むことにもなる。ある校長は「本来必要のない調査で寂しい話。学校に任せてほしいという思いはある」と明かす。 県教委は、現場の戸惑いの声にも耳を傾け、是正指導後のステップへと踏み出すべきだろう。保護者の多くは今、際立つ国歌斉唱の調査よりも、学力や体力の向上、心の成長に全力を傾けることを望んでいると思う。
(2005.5.16)
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