中国新聞


社会人の責任痛感
広島県立広島商高校 仕事体験発表会


 フリーターやニートと呼ばれる若年無業者の増加を受け、生徒の勤労観や職業観を育てる「キャリア教育」が広がりを見せている。「キャリア教育日本一」を目標に掲げる広島県立広島商高(広島市中区)は、インターンシップ(就業体験)を柱に、実践を重視する。生徒たちは実社会との距離を縮める一方、自分の考えを伝える力など課題を自覚しているようだ。一月末、同校であった「仕事体験」の発表会を訪ねた。

(金刺大五)


敬語に苦戦/体力いる/資格必要

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インターンシップを通じて学んだ教訓などを発表する広島商の生徒(1月26日)

 会場の体育館には、生徒や受け入れ先の企業関係者ら約千人が集まった。昨年の夏休みに三日間程度、百十八の企業・団体で実習したのは二年生約二百人。うち八人が体験を発表した。

○商業科 上手陽子さん(16)

 三菱重工業広島製作所(西区)で事務の仕事に携わった。電話応対など慣れない仕事に緊張した日々。二枚以上の書類はクリップで留める、廊下でお客とすれ違う時は立ち止まって一礼するなど、社員の気配りやマナーは印象的だった。正しい言葉遣いや時間厳守などが、社会に出た時の基礎になると実感した。

 敬語には苦戦した。正しく使えないと会社のイメージを損ねてしまう。希望する医療の事務職に就くためにも、大きく明るいあいさつを心掛け、言葉遣いを勉強したい。

商業科 友池啓恵さん(17)

 有料老人ホーム「ほのぼの苑」(安佐南区)で、介護の仕事を体験。食事の介助をしたり、ベッドのシーツを交換したり…。夕方まで、あっという間に過ぎた。体力も必要だった。

 耳の不自由な高齢者に、遠くから声を掛け、伝わらなかった。一人ひとりの体の具合を把握し、思いやる心がないと信頼関係は築けない。介護士さんからは「お年寄りを親と思って接しなさい」と注意を受けた。

 保育士になりたい。職場、利用者から信頼される人材になるため、責任感を強く持ちたい。

会計科 前本祐輔さん(17)

 上田・土沢法律事務所(中区)で実習。弁護士に同行し、民事裁判を傍聴したり、事務所で請求書のあて名書きを手伝ったりした。社会で即戦力になるためには、高度な資格の取得が必要と実感した。将来の夢は税理士。簿記一級など、多くの資格取得を目指す。

98% ―学校で学べぬこと学べた

 同校は本年度から就職希望者だけでなく、進学希望者にもインターンシップの枠を拡大している。実習後のアンケートでは「学校では学べないことを学べたか」の問いを98%が肯定。一方、今後、身に付けたいものとして、敬語の使い方、礼儀作法、接客応対が上位を占めた。

 昨年、全国公募で高校校長に採用され広島商高付となった元銀行マンの本田和哉さん(51)は、銀行時代、窓口で言葉足らずの対応をして苦情を受けたり、上司に自分の考えを伝えられない新入行員を多く見てきた。「自分の考えを正しい言葉で伝える能力や、社会的なマナーを高校生活でしっかり身に付けないといけない」と強調する。

 広島商高の2人を受け入れた東区の建設会社社長奥河内博夫さん(54)も「明確に働く意志や意欲を持った若者が、社会に出てくることを望んでいる。働く楽しさを知る好機となる」とキャリア教育の広がりに期待する。

 2000年3月に高校を卒業後、3年以内に離職した割合は広島県内で48.3%。全国平均は50.3%に及ぶ。昨年1月、文部科学省は「組織的・系統的」キャリア教育推進の基本指針を打ち出した。教育現場には今後、就業体験などの取り組みによる「成果」も求められてくる。

■将来生き抜く力の基礎を 上野原作校長に聞く

 キャリア教育の意義や取り組みなどについて、県立広島商高の上野原作校長(58)に聞いた。

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「キャリア教育は、将来の『自分史』をつくる土台。生徒の主体性が求められる」

 ―推進の狙いは何ですか。

 将来を生き抜く力の基礎基本をつけたい。社会人、職業人として自立するために高度な専門知識や技能、マナーを身に付けることが、学習意欲の向上にもつながる。その場の設定や助言をしながら支援するのが学校の役割だ。

 ―インターンシップに力を入れる理由は。

 百聞は一見にしかず。将来の就職への実感がわき、職業適性も見えてくる。敬語やマナーの大切さを知り、働く喜びや厳しさ、仕事への誇りを実感してくれればと思う。

 ―若者の高い離職率をどうみていますか。

 若者が抱く働くイメージと、企業側の求める人材とのミスマッチが原因。生徒は何がしたいのか、どんな職業に向いているのかを把握し、就職したらプロとしての自覚を付けないといけない。進路指導では、生徒の視野を広げ、自立を促す指導を心掛けている。

 ―「キャリア教育日本一」を目指す具体的な取り組みは。

 一年生では適性検査を実施し、性格や職種の向き不向きを知る。二年生は経験を重視し、インターンシップ後は、実習成果や今後の決意を報告書にまとめる。三年生は、起業家講座やビジネス実務のマナー講座など専門的な授業を受講し、応用力を付ける。また、三年間を通じ、資格取得や「広商デパート」の開催など実践的な教育を展開している。

 ―キャリア教育の今後の課題は。

 小、中学校から発達段階に応じ、積み重ねる必要がある。就業体験や見学の受け皿づくり、しつけなど企業や地域、家庭との連携が欠かせない。

(2005.2.7)


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