少子化時代の大家族
「ごはんよー」。母親の岡川晴美さん(37)が声を張り上げると、中学二年から五歳までの四男一女が、座卓に駆け寄る。父親の和彦さん(40)、近くに住む晴美さんの両親も加え総勢九人。ホットプレートで焼くギョーザは、二百五十個。呉市坪ノ内町の自宅には、香ばしいにおいと、にぎやかな声が充満する。
晴美さんはケアマネジャー、和彦さんは小学校教員。三男を出産した後、晴美さんは一時、夜勤のある看護師をやめていた。しかし、三男が一歳になると、「社会から断絶されたくない」と別の仕事に就いた。 その後、長女と四男の出産の場は、自宅を選んだ。「みんなに囲まれたお産は、本当に幸せでした」。立ち会った長男の宏和君(13)は「感動した。命の大切さを感じた」。 きょうだい同士の「生存競争」も激しい。ギョーザは瞬く間にプレートから消えた。ケーキは分度器で測って分け合う。そんな光景を見るにつけ、晴美さんは楽しくて仕方ない。「四人目からは経験もあるし、余裕もできた」と、自信ものぞかせる。 ◆ 一歳から小学五年の三男三女の子育てに奮闘するのは、三次市吉舎町の会社員山崎誠さん(33)明江さん(33)の夫婦。自宅の軒先には、子どもたちの洗濯物がズラリ。「毎日、だいたい八回、洗濯機を回すんですよ」と明江さんは明かす。 結婚はともに二十一歳のとき。すぐ三人の子に恵まれた。四人目を授かり、明江さんは思うようになった。「まだ若い。どうせなら十人ぐらい」
先のとがったものに触れたり、病気になったり…。その度に神経をすり減らした「子育て初心者」の時期は終わった。公園ではしゃぐ子どもらを見つめる二人は、「だんだん大ざっぱになって、大変さも感じないね」と顔を見合わせ笑う。 そんな明江さんも週に一回程度、会員同士で子どもを預かる市のファミリーサポートセンターを利用する。一時間三百円。友人が勧めてくれた。美容院に行く時などに数時間、預かってもらう。
◆ 呉市の岡川さん夫婦は、市の保育所や学童保育を利用する。自宅そばで理容店を営む晴美さんの両親に手を借りることも多い。 周囲の支えもあり「産むほどに楽しい」と実感する両家族。でも、教育費など負担はこれから増える。現状の行政の支援策だけでは心もとない、との思いも共通する。「もっと子どもが欲しい」と晴美さん、明江さん。そんな願いをどこまで受け止められるか―。少子化時代のまちづくりの大きな鍵でもある。 ■「喜び」伝える環境に力―県福祉保健部長 新木一弘さん(45)に聞く
少子化対策と子育て支援の旗をどう振るのか―。三男一女の父でもある県福祉保健部長の新木一弘さん(45)に聞いた。 ―県の支援策のポイントは。 キーワードは、「みんなで子育てを楽しめる環境づくり」。共働き家庭の母親だけでなく、専業主婦、父親も含め、子育て支援のサービスを提供したい。小児医療体制の確保といった子ども自身への支援に加え、親を対象にした「育ち」への理解のための講座など、家庭づくり教育にも力を入れる。 ―少子化は、何が一番の背景だと思いますか。 今の若い世代は子育ての「喜び」より、「労力」が大きいと感じるのでは。子育て環境が整っておらず、職場優先の風土もあり、家庭で親から子に、子育ての喜びが伝わっていない。虐待などネガティブな面が強調されて伝わっている感じもある。子育ての喜びを伝えるのも、今後の重要な課題となる。 ―三男一女の子育てから得たものは。 わが家の四人は、中学一年からゼロ歳まで。一昨年夏に広島へ赴任したが、子どもを通じ地域になじめる。四人目からは余裕も出て、子育てがとにかく楽しい。二十一世紀は「家庭の復権」がテーマ。職場ばかりでなく、家庭で過ごす時間の大切さを、積極的にアピールしたい。
(2005.1.4)
|