中国新聞


産むほどに楽しい育児
少子化時代の大家族


 一・三四―。広島県内の女性が一生に産む平均の子どもの数(合計特殊出生率)は、二〇〇三年にここまで低下した。「将来の地域の担い手を一人でも多く」と、行政は子育て支援に知恵を絞る。そうした中、「少子化時代、何のその」の子だくさん家族もある。にぎやかなだんらんの場から発せられるのは、こんなメッセージだ。「子育てって、多いほどに楽しいよ」

(平井敦子)


4男1女 呉の岡川さん 食卓 笑顔がいっぱい
3男3女 三次の山崎さん 「大変さを感じない」

 「ごはんよー」。母親の岡川晴美さん(37)が声を張り上げると、中学二年から五歳までの四男一女が、座卓に駆け寄る。父親の和彦さん(40)、近くに住む晴美さんの両親も加え総勢九人。ホットプレートで焼くギョーザは、二百五十個。呉市坪ノ内町の自宅には、香ばしいにおいと、にぎやかな声が充満する。

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焼くギョーザは250個。子ども5人を含む総勢9人で囲む岡川さん方の食卓からは、歓声と笑顔が絶えない

 晴美さんはケアマネジャー、和彦さんは小学校教員。三男を出産した後、晴美さんは一時、夜勤のある看護師をやめていた。しかし、三男が一歳になると、「社会から断絶されたくない」と別の仕事に就いた。

 その後、長女と四男の出産の場は、自宅を選んだ。「みんなに囲まれたお産は、本当に幸せでした」。立ち会った長男の宏和君(13)は「感動した。命の大切さを感じた」。

 きょうだい同士の「生存競争」も激しい。ギョーザは瞬く間にプレートから消えた。ケーキは分度器で測って分け合う。そんな光景を見るにつけ、晴美さんは楽しくて仕方ない。「四人目からは経験もあるし、余裕もできた」と、自信ものぞかせる。

    

 一歳から小学五年の三男三女の子育てに奮闘するのは、三次市吉舎町の会社員山崎誠さん(33)明江さん(33)の夫婦。自宅の軒先には、子どもたちの洗濯物がズラリ。「毎日、だいたい八回、洗濯機を回すんですよ」と明江さんは明かす。

 結婚はともに二十一歳のとき。すぐ三人の子に恵まれた。四人目を授かり、明江さんは思うようになった。「まだ若い。どうせなら十人ぐらい」

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自宅近くの公園で遊ぶ山崎さん夫婦と6人の子どもたち。きょうだいでも子育てのきずなをはぐくむ

 先のとがったものに触れたり、病気になったり…。その度に神経をすり減らした「子育て初心者」の時期は終わった。公園ではしゃぐ子どもらを見つめる二人は、「だんだん大ざっぱになって、大変さも感じないね」と顔を見合わせ笑う。

 そんな明江さんも週に一回程度、会員同士で子どもを預かる市のファミリーサポートセンターを利用する。一時間三百円。友人が勧めてくれた。美容院に行く時などに数時間、預かってもらう。

グラフ「広島県内の出生数と合計特殊出生率」

    

 呉市の岡川さん夫婦は、市の保育所や学童保育を利用する。自宅そばで理容店を営む晴美さんの両親に手を借りることも多い。

 周囲の支えもあり「産むほどに楽しい」と実感する両家族。でも、教育費など負担はこれから増える。現状の行政の支援策だけでは心もとない、との思いも共通する。「もっと子どもが欲しい」と晴美さん、明江さん。そんな願いをどこまで受け止められるか―。少子化時代のまちづくりの大きな鍵でもある。


■「喜び」伝える環境に力―県福祉保健部長 新木一弘さん(45)に聞く

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「子育ての楽しさをもっと積極的に伝えたい」と語る新木部長

 少子化対策と子育て支援の旗をどう振るのか―。三男一女の父でもある県福祉保健部長の新木一弘さん(45)に聞いた。

 ―県の支援策のポイントは。

 キーワードは、「みんなで子育てを楽しめる環境づくり」。共働き家庭の母親だけでなく、専業主婦、父親も含め、子育て支援のサービスを提供したい。小児医療体制の確保といった子ども自身への支援に加え、親を対象にした「育ち」への理解のための講座など、家庭づくり教育にも力を入れる。

 ―少子化は、何が一番の背景だと思いますか。

 今の若い世代は子育ての「喜び」より、「労力」が大きいと感じるのでは。子育て環境が整っておらず、職場優先の風土もあり、家庭で親から子に、子育ての喜びが伝わっていない。虐待などネガティブな面が強調されて伝わっている感じもある。子育ての喜びを伝えるのも、今後の重要な課題となる。

 ―三男一女の子育てから得たものは。

 わが家の四人は、中学一年からゼロ歳まで。一昨年夏に広島へ赴任したが、子どもを通じ地域になじめる。四人目からは余裕も出て、子育てがとにかく楽しい。二十一世紀は「家庭の復権」がテーマ。職場ばかりでなく、家庭で過ごす時間の大切さを、積極的にアピールしたい。

わがまちのイチオシ!
県内市町の主な支援策
広島市 病児・病後児を小児科など5カ所の保育室で預かる。
呉市 子育ての不安が強い家庭に「子育てヘルパー」を派遣。家事を援助し相談にのる。
三次市 4月から、おたふくかぜと水ぼうそうのワクチン接種を補助。1歳から就学前までが対象。
庄原市 会員同士で子どもを預け合う「ファミリーサポートセンター」を開設。1時間300円。
廿日市市 乳幼児と保護者向けのプレールームを、年末年始を除いて毎日開設。
海田町 幼いころから本に親しんでもらうため、乳幼児検診を機に絵本をプレゼント。
湯来町 中、高校生が乳幼児検診などの場でふれあい体験。次世代の親を育てる目的も。
安芸津町 4歳以下の子どもがいる世帯向けに町営住宅を整備。敷地内には子どもと高齢者の交流施設も。
西城町 父親に「父子手帳」を交付。育て方や遊び方を紹介し育児参加を応援。
高野町 出産祝い金10万円を支給。さらに、子どもが3歳になったら第2子20万円、第3子60万円、第4子以降は90万円を贈る。

(2005.1.4)


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