広島・油木高 広島県油木町の県立油木高(244人)が、地元の神石郡4町村の支援を受け、大手予備校の通信衛星授業を導入して半年になる。現在の2、3学期講座には英国数の3教科で延べ100人近くが登録する。専門科では地元農家が実技指導に乗り出した。普通科、専門科を問わない支援の動きは、県立高校の配置見直しの中で、町村や住民が抱く存続への危機感に由来する。地元の高校を地域で支える営みが、「高原の町」に根付きつつある。 (石井伸司)
■衛星授業 4町村が受講料負担
大画面の中で、予備校の人気講師が立て板に水の授業を展開する。講師の指示に従い、テキストにアンダーラインを引きながら、集中して聴く生徒たち。静かだ。 郡内出身の生徒は全校生徒の59%。学校の所在地から、塾のある福山市などへ四十キロ以上の道のりがある。衛星授業は、進学のための塾通いがしにくいという地理的なハンディを克服する、いわば切り札だ。 町村が受講料を負担するため、一教科一学期分相当で千二百―千五百円のテキスト代しかかからないという経済的なメリットも大きい。小学校教諭を目指す三年伊吹香名子さん(17)は「夏休み、福山市の塾も考えましたが、衛星授業と学校の補習を合わせて三週間、頑張れたのでよかった」と振り返る。 存在アピール 十一月五日に合併して「神石高原町」となる神石郡四町村。その建設計画の柱の一つに「人づくり事業」を掲げる。小、中、高校の教育を段階的に支援して町の将来を担う人材を育成しようと、十年間で計五億円を盛り込んだ。この一部を前倒ししたのが衛星授業の支援だった。 この構想を実現し、過疎化に歯止めをかけるためにも、油木高の存続は不可欠となる。法定合併協議会会長を務めた豊松村の岡崎斉村長も「地域を挙げて油木高を支えていくことで、地元にとってどれだけ大切なものであるか、あらためてアピールしていくことにもつながる」と期待する。 衛星授業導入から半年たち、成果も見え始めている。授業ごとに実施する「よく分かる」から「とても難しい」まで四段階の理解度調査の結果によって、テキストの難易度アップを検討している教科もあるという。木本成文校長は「二学期からは授業調査に予習復習の項目も加えた。授業の効果をより高めるために、予習の習慣化を進めたい」と課題を挙げる。 教員にも刺激 教員たちにも変化が生まれた。本年度、学校の目標は「授業の質を見直そう」。衛星授業の人気講師の授業の秘訣(ひけつ)は何か、各教科で自分たちとの相違点を考えている。教育研究部が生徒、教員からアンケートをとり、「授業に取り入れるべきことは何か」「授業改善の具体策は」などの回答結果を分析中だ。 中高連携の強化への取り組みも浮上した。木本校長は「教科指導と生活指導は表裏一体。家庭学習の習慣をいかにつけるか、郡内の四中学校とともに考えたい」と意欲を見せる。教科ごとの相互の授業研究や研修にも、主導的な役割を担いたい考えだ。 このような変化は周囲の同校への評価にも結びつく。九月上旬に生徒たちと同校を学校訪問した郡内のある中学校の三年担当の教諭(48)は「衛星授業に強いインパクトを受け、進学先の選択肢に入れ直した生徒もいた。授業態度やクラブ活動の様子も好ましかった。油木高の評価は確実に高まっている」と明かす。 中山間地域にある県立高校を地域が支え、学校もその期待に応えていく。効率化だけでは語れない、ぬくもりの感じられる教育の現場が生まれようとしている。
■リンゴ栽培 農家が指導 油木高には普通科とともに産業ビジネス科がある。農産物の栽培、畜産からフラワーアレンジメントまで、地元の基幹産業である農業にかかわる幅広い知識や技術の修得を目指す。 ▽収穫まで体験 古里意識熟成 その生徒たちに、地元の農業者たちも熱い視線を送る。神石高原町りんご生産組合の事務局を務める逸見博志さん(78)は二〇〇二年から、リンゴ栽培の実技指導をしている。枝打ちから、摘果、袋かけ、収穫までの体験を通して、生徒たちの農業に対する意識を高めてもらうのが狙いだ。学校側も本年度は実技の授業時間に取り込み、班に分かれてリンゴ畑での作業に取り組んだ。 逸見さんは「油木高は地元にとって大切な存在。生徒たちが地元に残って、また外の学校に進んでも、戻ってきて農業に従事してほしい」と期待する。 夏休み前の摘果などの作業から今年はやや日があいてしまったが、今後は台風による落果や倒木の後始末の手伝いをしてもらうことも検討中。逸見さんは「リンゴ以外の栽培にも挑戦してもらえる環境づくりも進めたい」と話している。 (2004.10.18)
|