少子化深刻な三次市青河町 通学条件に住宅用意 三次市の農村地帯に、「地元の小学校への通学」を条件に入居者を募る賃貸住宅がある。地元住民が資金を出し、住宅を用意するユニークな取り組み。少子化が深刻な中山間地域で続く住民の奮闘は、効率一辺倒で進みがちな学校統廃合の在り方に一石を投じている。 (石川昌義)
会社設け格安賃貸 / 子育てもサポート
国道54号沿いに田園風景が広がる三次市青河町。田んぼの真ん中に、真新しい二階建ての住宅が見える。新築だけではない。築四十年の空き家を改造した物件もある。 地元住民が二〇〇二年六月、設立した有限会社「ブルーリバー」が整備した住宅は七戸に上る。全戸入居済み。計三十三人が暮らし、小学生以下の子どもが十九人を占める。 ブルーリバーは、会社設立の目的に「地域の児童の確保」を掲げる。住民九人が一人百万円ずつ出資して立ち上げた。出資者の一人で、社長を務める瀬戸昇三さん(77)は「人口五百人の青河にとって、学校は住民の交流と文化の拠点。学校の存続に役立てば百万円は惜しくない」と言い切る。 児童6人増える 学校存続のための賃貸住宅―。この発想は十年近く前に生まれた。近くの青河小の児童減少が続き、廃校のうわさが出始めていた。当時公民館長だった瀬戸さんを中心に少しずつ輪が広がり、アイデアを現実にした。 九人の「社員」は全員、無報酬で仕事を引き受けている。工務店を経営する岩崎積さん(53)は「個人の損得を考えたら何もできんよ」と笑う。 岩崎さんが格安で資材を調達し、2―3DKの一戸建てを四万円前後で貸し出すことが可能になった。入居者募集を始めた昨春以降、一戸の空き家もない人気ぶり。転勤族のほか、田舎暮らしを希望して都市部から移ってきた人もいる。青河小の児童数は、入居者募集前の二十三人から二十九人に増えた。 近所で支え合い 児童が増え、新たな課題が生まれた。転入家庭の大半は若い共働き。今秋から住民が有償ボランティアで託児を引き受ける。放課後に子どもたちが一緒に遊べる市の放課後児童クラブは児童数が基準に満たず、設置できないからだ。 市福祉事務所に「出前講習」を依頼し、受講した十八人が「子育てサポート会員」に登録した。今春、住宅に引っ越し、一―六歳の三人の子どもを抱える会社員坂根勝利さん(34)、佳子さん(33)夫妻は「町中に住んでいた時には感じられなかった近所同士の支え合いを強く感じる」と言う。 熱心な取り組みの一方で、小規模校の現実は厳しい。合併前の旧三次市教委は昨秋、青河小を含む三校を対象に「〇六年度の児童数が二十人を割れば、地元と統廃合の協議に入る」方針を打ち出した。併せて学区を自由化したが、市中心部から青河小は約十キロ離れている。市街地から通学する児童は一人もいなかった。 「家を建てただけで学校が存続するほど甘くない。引っ越してきた人たちが地域に愛着を持ってくれないと一時しのぎに終わる」と瀬戸さん。学校と地域の交流に、これまで以上に力が入るようになった。 今春、一家六人で尾道市から移った会社員大橋進さん(43)は「農村の豊かな自然は子育てに最高の環境。教育の選択肢に、小さな学校があってもいいはず」と語る。 賃貸住宅から子育てサポートにまで広がった住民の取り組みは、学校統廃合の大波を乗り越える可能性を秘めている。 ■定住・転入者の交流期待 青河公民館長 中村洋之助さんに聞く 三次市青河町の住民の取り組みについて、「ブルーリバー」の出資者でもある中村洋之助・青河公民館長(70)に聞いた。
―活動を軌道に乗せた秘訣(ひけつ)は何ですか。 熱心な先生が学校にいたことが大きい。子どもと一緒に、川の水質浄化やホタルの復活に取り組み、「頑張れば地域が変わる」と刺激を受けた。学校の隣にある公民館が一種のサロンになり、住民同士の話し合いが活発になった。地域づくりに知恵を絞る楽しさに気付き、「できんじゃろう」と消極的になることがなくなった。 ―地域にとって、学校はどのような役割を果たしていますか。 市街地の大規模校と比べて学校の敷居が低い。地域の悩みを先生に相談し、解決に向けて一緒に汗を流す連帯感がある。総合的な学習が導入されたことで住民の知恵や技能を学校で生かしやすくなった。子どもの笑顔に接することが、何よりの生きがいになっている。 ―転入者が増え、地域は変わりましたか。 託児の悩みなど、新住民ならではの苦労話を聞いて、すぐに対応する機敏さが生まれた。学校を守るには、今後も転入者の力を借り続けなければいけない。心意気が通じたのか、転入してきた若い母親が「子育てサポート会員」に加わってくれた時はうれしかった。 ―どのような活動を今後、目指しますか。 十戸を目標に住宅を増やす。希望者には住宅を販売し、定住人口も増やしたい。定住者と転入者の交流が、地域を支える原動力になると確信している。 (2004.9.6)
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