子どもが本に親しむ環境づくり 山口県で推進 学校・地域・行政 読む楽しさ育成 子どもが本に親しめる環境づくりへ向け、山口県内で、学校、地域、行政それぞれの取り組みが活発になっている。本を読むと、言葉や表現、史実など知識を蓄積できるだけでなく、想像力もはぐくまれる。ただ、押し付けるばかりでは、かえって逆効果で、読書離れを加速させる。子どもたちに読む楽しさをいかに体感させるか。環境整備と合わせて、それがポイントとなる。 (奥田美奈子)
保護者が読み聞かせ ―山口市大歳小・毎週ボランティアで6年
山口市の大歳小(吉武立美校長)の多目的室には毎週金曜日、昼食を終えた低学年の児童が次々と集まってくる。保護者二十二人でつくる図書館ボランティアグループの一人、田中初江さん(42)は、集まった三十人に「お話広場始めるよー」と呼び掛けた。 「次に出てくるのは誰かな」。白板の上で動物の手づくり紙人形を踊らせると、子どもたちは「ゾウだ、クマだ」と物語にのめりこむ。絵本の読み聞かせや縫いぐるみ劇が続き、三十分はあっという間。「ああ、おもしろかった」「また見に来るけえ」と満足そうに教室へ戻っていった。 通称「図書ボラ」が週一回、六年間続けてきた活動だ。田中さんは「参加した子が『あの絵本読んでみたよ』と言いに来る。本を読むきっかけになっているのかも」と効果を実感している。 図書室では、市派遣の図書館指導員と同小PTAが雇用する係員の二人が交代制で、蔵書の整理や本の選び方を指導する。図書ボラ出身の指導員、田中栄子さん(50)は「楽しい本を選び、手渡してあげる大人は、子どもにとって必要な存在」と強調する。 読書習慣二極化 全国学校図書館協議会と毎日新聞社が昨年、全国の小学四―六年三千九百十二人を対象に実施した読書調査によると、小学生が一カ月に読む本の平均冊数は八冊で、上昇傾向。しかし、ゼロと回答した割合も58・7%と高く、右肩上がりだ。 兼重孝子司書教諭(47)は「読む子と読まない子が両極化している。どこかで分かれ道があったはず」と現状をみる。「できるだけ本を開く方向に導いてあげられるよう、司書や教員などの十分な人員配置も必要だ」と訴える。 県も、学校や地域の支援に乗り出した。県立図書館に四月、読書推進に携わる市民団体や学校からの相談を受け付ける子ども読書支援センターを設置。活動例の紹介や、読み聞かせの講師の派遣などに取り組んでいる。相談件数は五月末までの二カ月で四百五十件に上った。 支援センター設置は、県が策定中の子ども読書活動推進計画に盛り込まれている事業で、先行実施された。計画は二〇〇七年度までを対象とし、子ども向けの本を紹介するホームページ作成や、朗読ボランティアなどを登録する人材バンクづくりなども想定する。 押し付け逆効果 読書推進は県教委も重視する。知・徳・体のバランスが取れた子どもの育成を目指し、今月スタートした子ども元気創造推進事業で、知識や道徳心を育てる具体策として読書推進を挙げた。県内の八小学校をモデル校とし、始業前の読書時間の確保や、図書室の整備などに取り組む計画だ。 この流れを受け、県立図書館で支援センターを担当する山本安彦主査は「子どもの想像力をかきたてるのは、やはり活字だ。子どもと本を結び付けようとする動きが、各方面で強まっている」と歓迎。「この流れが、子どもへの押し付けにならないよう注意も促したい」と気を配る。 兼重教諭も「学校だけで読め、読めと呼び掛けても効果はない。図書ボラさんや保護者の力を借りながら、読む楽しさを体感してもらえるよう心掛けたい」。 好きなスポーツや歌手について本で知りたい、自由研究で必要な情報を集めたい…。子どもが主体的に情報を得たいと思った時、すぐ本が手に届くような環境づくりを、子どもがかかわる学校や図書館、家庭などすべてが意識することが、活字離れに歯止めをかける一つの鍵になりそうだ。 まず大人が読もう 山口県立大国際文化学部 安光裕子助教授に聞く 山口県の子ども元気創造推進事業の推進委員を務める県立大国際文化学部の安光裕子助教授(図書館情報学)に、読書の重要性や大人が果たす役割などを聞いた。
―読書が子どもに与える効果は何ですか。 私は学校図書館を「どこでもドア」と呼んでいる。本は、同じ場所で読んでいても歴史や時事問題、海外の情報も得られる。空間や時間を超えて、子どもの体験や心を豊かにしてくれる。言語力も備わり、他者とのコミュニケーション能力の向上も期待できる。 ―本を読まない子どもが増えているのは、なぜでしょう。 漫画を含む雑誌ですら読む子どもが減っている。本や雑誌を読まなくても、携帯電話で遊んだりテレビを見たり、娯楽は十分そろうのだろう。調べ学習でも、検索スピードの速いインターネットに頼り、本に触れる機会が少ないようだ。 ―読書推進活動で注意すべき点はありますか。 本を読まされても感動は生まれない。読んだ冊数は指標の一つで、唯一の物差しにしてはいけない。たくさん読む子、一冊をじっくり読む子などそれぞれで、読書の本質を見失わないでほしい。 また、本の専門家である司書の配置にも気配りが必要だ。蔵書の入れ替えなど関心を呼ぶ工夫がなければ子どもも飽きる。読書を後押しする大人がいてあげたい。 ―家庭や地域で実践できることはありますか。 統計によると、具体的に読書を勧めている親は実は多くない。身近な大人が日常的に本を読んでいれば、子どもも気になる。まず、大人も本を読んでほしい。 (2004.7.5)
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