中国新聞


児童虐待、広島県東部で深刻化
福山児童相談所 2年連続200件台


 親が子どもを殴ったり、食事を与えなかったりする児童虐待が広島県東部で深刻化している。東部十九市町村をカバーする県福山児童相談所への相談・通告件数は二〇〇三年度、二百三十七件に上り、二年連続で二百件を超えた。家庭内という密室で潜行していた「暴力」が、法整備などもあって徐々に表面化し始めている。

グラフ「福山児童相談所への相談・通告件数」
児童虐待 保護者が18歳未満の児童に対し、肉体的な暴力、性的な暴力、育児放棄、心に傷を与える言動などをする行為で、2000年11月施行の児童虐待防止法で初めて定義された。同法で、虐待の発見者は、公的な窓口である児童相談所か福祉事務所への通告が義務付けられた。さらに、子どもと接する機会が多い学校の教職員や医師、弁護士なども、児童虐待の早期発見に努めなければならない、と明文化された。

 この十年間で、二百三十七件は〇二年度の二百五十二件に次ぐ。〇一年度の百三十二件からは倍増、一九九四年度の六件に比べ四十倍近くになった。通告義務を定めた児童虐待防止法の施行などを背景に、住民の関心が高まったのが要因とみられる。

 相談・通告の情報元は「学校」が四十八件と最も多く、全体の二割を占める。次いで「家族」の三十三件、「近隣住民・知人」三十件と続く。大阪府岸和田市の中学生虐待事件が発覚した今年一月以降、学校からの相談が増え、「虐待に対する教育現場の意識が変わってきた」(相談所)という。

 虐待の内容は、殴るけるなどの「身体的虐待」百十七件と、食事を与えないなどの「育児放棄」の百八件を合わせ、全体の95%を占めた。昨年七月、近所からの通告で職員が訪ねたところ、風呂にも入れず、真っ黒な顔をした姉弟がいた。部屋はごみの山で、母親がほとんど家に帰らない「育児放棄」だったという。

 虐待された子どもの四割は小学生で、虐待した側の六割は母親だった。相談・通告から、事実関係を調査した上で、当事者の親子と面接し、予防方法などを指導した。それでも、子どもの安全が確保できないと判断し、児童養護施設への入所などで、親と隔離したケースは三十件に上った。

 急増する相談・通告に対し、四月、担当職員を二人増員した同相談所は「小さな危険信号でも子どもの命にかかわる場合がある。深刻な虐待から子どもを守るには、早期発見と素早い対応しかない」としている。


 心深く傷つく子ども 虐待で入所 福山の施設ルポ

 心理療法を取り入れ

 県福山児童相談所が親と生活することができないと判断した子どもが入所する民間の児童養護施設は、県東部には福山市と尾道市に一カ所ずつある。両施設で暮らす百四十五人のうち、虐待を受けていた子どもは三割を超える四十六人。体だけでなく心まで深く傷つけられた子どもたちが生活している福山の施設を訪ねた。

 小学生のミホ(仮名)が、福山市加茂町の「こぶしケ丘学園」に入所したのは数年前。原因は、保護者から火のついたライターを押し付けられるなどの身体的虐待。通っていた幼稚園が気付いた。

 寂しがり屋の面も

 「反抗的で物を投げ付けたり汚い言葉を言ったり、手を焼く子だった」。担当の保育士は入所当時を振り返る。無口で警戒心が強く、保育士の話を聞こうとしなかった。しかし寂しがり屋の一面も持つ。

 自己表現が素直にできないミホの心に変化が出始めたのは、二〇〇二年から同学園が取り入れた心理療法がきっかけだった。心理療法士が週一回訪れ、箱の中におもちゃを並べる箱庭療法で彼女の心理状態を分析。保育士が今まで以上にスキンシップを取りながらやさしく話し掛け続けることで、徐々に心を開くようになった。

 純粋さを取り戻す

 分からない問題があると投げだしていた勉強も最後までするようになり、学園のグラウンドで友達と仲良く遊べるようになった。保育士は「純粋な子どもの心を取り戻した」と成長ぶりを口にする。

 同学園では、親から「隔離」された二〜十八歳の五十六人が過ごしている。児童虐待防止法が施行された二〇〇〇年以降、虐待の事実が分かって入所する児童が増え、今では四割近い二十一人に達した。

 保育士七人と児童指導員十一人が子どもたちの親代わりを務める。小川喜代光園長(70)は「家庭の難しい問題に、施設としてかかわっていくのには限界がある。罪のない子どもたちを支え、希望を持ち、前向きに生きていける気持ちをはぐくんでいきたい」と話している。

(2004.5.5)


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