中国新聞


校庭の芝生化 文科省推進9年
緑の輪 中国地方に芽


 学校に「緑のじゅうたん」が広がろうとしている。気温の上昇を抑え、児童生徒のけが防止にも役立つと、校庭の芝生化を文部科学省が推進し始めて九年。中国五県では、財政難でしり込みする学校や行政に代わり、造園業界や市民グループが「子どもや環境に優しい校庭」の種まきを始めた。

(山瀬隆弘)

■造園業界や市民主導 シンポ開きNPOも発足

 広島、山口両市で二月下旬、「校庭芝生化」をうたうシンポジウムが相次いで開かれた。「子どものけがが三割減った」「野球の滑り込みや鉄棒を怖がらなくなった」。広島会場では、県内外の小学校長や大学教授が芝生効果を紹介。サンフレッチェ広島の球団職員も含め、約二百五十人の市民が耳を傾けた。
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全面芝生に変わった校庭で、はだしのまま遊ぶ子どもたち(2003年9月、安芸高田市の美土里小)

地域の支援が鍵

 課題も挙がった。「養生が大変」。土のグラウンド時代には必要なかった、維持管理の労力と金銭負担を指摘した。

 二年前に校庭を芝生に変えた東京都杉並区立和泉小の野崎佳子校長は「夏場は週一回、町内会などが芝の面倒をみてくれる」。昨年秋に芝生を敷いた安芸高田市立美土里小の永井初男校長も「地域のお年寄りを招き、芝刈り交流も考えている」。芝生校庭を根付かせる鍵は住民の支援―と声をそろえた。

 両シンポとも、主催は造園業界。広島県造園建設業協会の理事西山直樹さん(52)は「協会で芝生養生の奉仕グループをつくる構想もある」と張り切る。校庭の芝生化は、商売っ気だけでなく、地域貢献が加わり、熱の入り方が違うという。

 同協会は昨年春から、先進地視察で東京都や兵庫、宮崎両県などを回った。不況打破が、一番のもくろみだった。最盛期の一九九〇年代前半に比べ、業者の収入は半減している。「未開拓地」として着目したのが、校庭だった。

5県に4校だけ

 「ところがね、視察先で一番心に残ったのは、子どもらの元気よさや笑顔だったんよ」と西山さん。伸び伸びした姿は輝いて見えた。ぜひ広島でも普及をと、県教委に訴えた。しかし、頑として首を縦に振らない。「趣旨は分かるが、業界からの要請で動くわけにはいかない」が答えだった。「それなら、世論をおこそう」と打った、初めてのシンポだった。

 文科省が「芝生校庭」化に補助制度を設けた九五年以降、全国で計二百四十三校(二〇〇二年度末まで)が取り組んだ。このうち、中国五県では、山口三校、広島、島根の各一校だけ。立ち遅れている。

 そんな中、今年一月、福山市に芝生化を事業目的に掲げる特定非営利活動法人(NPO法人)「ふくやま環境会議」が発足した。環境問題に関心の高い市民十一人でつくる。二十七日に広島県沼隈町で初めての講演会を開き、地球温暖化防止など環境保護の立場から、校庭の芝生化を求めていく方針だ。

 「学区の住民が草抜きなどをちょっと手伝えば、メリットの大きな芝生化を阻む、小さな弱点は消える」と、事務局長の僧侶鈴木宏章さん(24)。「緑広がる校庭は、地域の憩いの場にもなる。私たちが学校と住民の接着剤となり、芝生校庭の普及体制を築いていきたい」と夢を語る。

 兵庫県明石市は新年度、市立の幼稚園と小中学校すべてで芝生化を進める。芝管理のボランティア網づくりを引き受けるという市民団体の後押しで、「全校芝生化」に踏み切った。

 同市教委の考え方は、明快だ。「どんなに熱心な教職員も、いずれは異動する。地元の住民に、校庭も地域の財産という認識がなければ、芝生化は長続きしない」。後を追う中国地方の市町村にとっても、至言といえそうだ。


 校庭芝生化 文部科学省が1995年から推進。芝生がクッションになり、安全に運動できる▽砂の流出、飛散を防ぐ▽日光の照り返しが弱まる―などが理由。公立の小・中学校、養護学校を対象に、事業費の3分の1(上限3000万円)を補助している。

(2004.3.26)


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