神戸の医院 男女産み分け2例 1例 染色体検査 体外受精した受精卵の一部を、母胎に戻す前に取り出して性別や遺伝病の有無などを調べる「着床前診断」を、神戸市灘区の大谷産婦人科=大谷徹郎院長(48)=が学会に申請せずに三例実施していたことが、四日分かった。(28面に関連記事) 着床前診断の実施を明らかにしたのは日本では初めて。異常があった受精卵は廃棄することになるため「命の選別」との批判がある着床前診断について、日本産科婦人科学会は実施条件を「重い遺伝性疾患に限る」と定め、これまで実施を承認したケースはない。 男女産み分けは学会の認める診断の対象に含まれておらず、学会に申請せずに実施した今回のケースに専門医から批判の声が上がっているが、記者会見した大谷院長は「中絶しなくていいのならやってあげたかった。申請しても認められないのは分かっていた」と話している。 大谷院長によると、同産婦人科では二〇〇二年ごろから着床前診断を実施。一例は高齢出産のため染色体異常がないかを心配して診断を希望した。残り二例は男女産み分けを望み、うち一例は妊娠後に流産したが、三十代女性は希望通り女児を妊娠、二月中にも出産の予定という。 大谷産婦人科は不妊治療を専門にする「不妊センター」を併設する医院。体外受精のほか、卵子に精子を直接注入する顕微授精や未受精卵子の凍結など先端的な不妊治療を手掛けている。
■問われる「命の選別」 欧米でも対応に差 【解説】着床前診断を神戸市の大谷産婦人科=大谷徹郎院長(48)=が三例実施していたことが、四日分かった。体外受精を実施し、受精卵の段階で遺伝子の異常などを調べる着床前診断は、生殖医療と遺伝子解析技術の進歩で実現した。しかし、倫理面や技術面の問題から、欧米でも対応が分かれているのが現状だ。 羊水検査など、胎児の細胞を調べるいわゆる出生前診断と違い、着床前診断の場合、異常が見つかれば母親に移植しないため妊娠は成立せず、中絶による母体への負担が避けられることが利点に挙げられている。 ただ、既に生命の萌芽(ほうが)といえる受精卵を着床させない場合、異常を理由に命を絶つことになり、出生前診断と同様「障害者の生存権を脅かす」「命の選別」「優生思想につながる」と、これまでも患者団体などが再三抗議している。 出生前診断に比べ、限られた細胞で診断しなければならない技術的難しさもあり、「実験的医療の段階だ」と信頼性を不安視する声もある。 世界では既に三千件以上実施され、七百人以上が誕生したとのデータがあり、米英では臨床応用が始まっている。だが、ドイツ、オーストリアは実施を認めず、フランスは審査を条件に認めるなど、対応が割れている。 日本産科婦人科学会も一九九八年、安易な着床前診断の実施を防ぐため、個別症例を審査した上、重篤な遺伝性疾患だけに実施を認めると会告(指針)で規定した。 今回は審査を経ず、実施自体に問題をはらむ男女産み分け目的も含まれ、専門医からは「論外だ」との声が出ている。 (2004.2.5 共同)
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